Column

第228話  日曜博物館

  早朝のジョギングを始めて、かれこれ15年程の歳月が経つ。
かつては、豪雨豪雪の時以外はほぼ毎朝のルーティンとして走っていたものだ。
走っていたものだと言うのも、自身還暦もとうに過ぎた今、やはり疲労の蓄積も著しく、5日走って1日休むようになり、次に4日走って1日休む、昨年からは3日走って1日休むと続き、とうとうここ最近では2日走って1日休むと言うルーティンとなってしまった。
まったくもって年には勝てない、それでも少しでも走れている分、まだ仕事もできているように思う。
走るルートとしては、種差海岸から出発して白浜を過ぎて葦毛崎展望台の少し手前を折り返す、10キロコースが主である。時折、葦毛崎展望台まで登って帰るのだが、それだと13キロコースになる。それは、朝としてはなかなかの長距離なので、それ以上となると休日の時のチャレンジとなる。
そのコースのなかでも、白浜から葦毛崎展望台へ向かう途中のコースで時折遭遇するのが、粋なビンテージカーである。それも普段街中ではめったに遭遇することのない珍しい代物ばかり、その姿はなかなか壮観でありまた懐かしくもある。
初めてそれに気づいたのは、数年も前になる。
懸命に走る私の後方、甲高い天空に抜けるように軽やかでありながらもトルクフルな排気音を響かせ走行してくる車が私へと近づいてくるのが分かった。随分と速度が出ているような躍動感だ。
なんだろう?そう思って振り返った私の目に飛び込んできたのは、シルバーのロータス7だった。特徴的なスタイルからすぐに分かった。雑誌ではその姿を目にしたことはあったが実物は初めて見る。
まるでサーキットを疾走しているスーパーカー並みの心地よいエギゾーストノートがベイエリアを包み込む。オープンスタイルのそれはシーサイドを軽やかに過ぎ去った。
かっこいい、素直にそう思った。
また、いつかのある日目にしたのは、カラカラとカラフルなエキゾーストノート、フロント2輪リア1輪の3輪車、レッドのメッサーシュミットだった。これにはさすがに驚いた。まさかこんなところでお目にかかれるとは。
200ccに満たないエンジンを持つ小さなこのドイツ車は、まるで飛行機のコックピットを彷彿とさせる運転席を持ち、前後ひとりづつのトータル2人乗りの車両で、とてもかわいいルックスをしている。走りながらもそのキュートさに見とれてしまっていた。
瞬時に、これは欲しいと思い、帰ってからネットで探してみたが国内に台数もなく、また相当に高価なものだったので諦めた。ちらりとコックピットを覗き見たとき、ロータス7のドライバーと似ているような気がしたが、気のせいか?
そうこうしているうちに気づいたことがある。珍しい旧車を見るのは日曜日が多いと言う事だ。天気の良い日曜日の朝はとても気持ちの良いものだ。休日の晴天の早朝とあらば、ビンテージカーオーナーとしては、海辺をひと回りしたくなるのもうなずける。
またある日、これもまたレースカー並みのエギゾーストノートが私の後方を支配するかのごとく私に近づいてくる。
私が振り向くと、そこにはシルバーのハコスカGT-Rの疾走する姿があった。昔友人のNが乗っていたのを思い出す。それはGT-Rではなかったがスタイルそのものが懐かしい。
現代で見ても、なおさらかっこいい。
これもまた乗ってみたい車なのだが、これこそ希少性から現在ではとんでもない価値がつて、とてもじゃないが手の出る代物ではない。
走り去るそのリアスタイルを目にすると、私の70年代が鮮明に蘇る。
またまたある日、これもまたレーシーなエギゾーストノートを響かせていた。それはイエローのスバル360だった。この力強い排気音はマフラーはもちろん変更してあるが、エンジンにまで手を入れてあるかのような、心地よいサウンドを響かせこれもまたシーサイドラインを疾走して行った。
これもメッサーシュミット同様、かわいい車である。
他、80’Sメルセデスや憧れのナローポルシェなども時々エントリーしているから面白い。
めったにお目にかかれないこんな希少な車達が、日曜日の朝に太平洋を背に走り抜ける光景は心躍るものだ。

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