Column

第225話  スペシャルタイム

  E・クラプトン武道館公演を知ったのは、その公演が既に初日を迎えた翌日だった。
初日公演が済んで翌日翌々日はDB・ブラザースの公演が2日間続き、その翌日から再びE・クラプトンが数日間続くと言った変則的な日程となっていた。
その再び始まる公演日は私の休日と重なっていて、私はすっかりと迷ってしまっていた。知ったのがあまりにも突然すぎて、どう行動すれば良いのか脳内がパニクっているのだ。
それこそ昔々「ガキの頃から知っている」世界的超有名どころである。
近頃になって、再びアコーステックギターを引っ張り出してポロリ弾き出した私は、参考にとYouTubeで一昔二昔またまたそれ以前の回顧主義的映像やら音楽を視聴するようになっていた。あまりの懐かしさと新鮮さにどんどん深みはまっていく。
そんな時だった、E・プラクトンの映像を見つけたのは。年代は忘れたが数年前の映像だろう、武道館ライヴのやつだった。現在よりはやや若い短髪のE・プラクトンがレイラを歌っている映像が映し出されていた。会場は大きく盛り上がり大きな歓声が館内に木霊した。懐かしさと嬉しさが交差し気持がこみ上げ心が高揚してくるのが解る。
結局その武道館ステージをアンコールまでしっかりとみてしまっていた。良かった、単純に良かった。耳に心地よかったし、目には刺激的だった、そしていったいこの人は今現在何歳になっているんだろうと思いながら、それにしてもかっこいい、そう思った。いつか機会があればこの空気感を味わってみたいと感じた。
そんな矢先での2023年武道館公演の発見だった。
取合えず、チケットはまだ手に入るのか早々に調べてみた。どうやらS席はすでに完売の様子、A席はまだあるらしい。ただ、A席の位置取りには多々問題がある事もあるので一度調べてみると、残っているのはステージバックサイド、その席では感覚的に少々無理がある。やはり今の今では当然な結果だろうと思った。今回は諦めようと考える事にした。
その夕方、心残りを引きずりなんとなくもう一度チケットの様子を見てみた。
すると予期せぬことにS席に少々空きが出ていた。奇跡的だ、恐らく急なキャンセルが出たのかもしれない。
時間の猶予はない、私は時間のかかる面倒なネットでの手続きを回避し都内に住む友人にチケットの購入を頼んだ。彼からはすぐに買えたとの連絡が入った。
ホテルは飯田橋に取った。
ホテルから徒歩で15分ほどで九段下の交差点に着いた。あたりは、その武道館へと向かう人々でごった返していた。E・クラプトン恐るべし、ものすごい人気だ。あの後調べたらE・クラプトンは78歳になったばかりだと書いてあった。これだけの長い年月トップクラスで走り続けているアーティストはそうはいまい。すごい事だ。
席は西X列だった。てっぺんの席、一時は完売となっていたことを考えれば私にはそれで十分だったし幸福だった。次から次からと人々が列をなし会場へと集まってくる。開演直前には、やはりだがあれだけの席がすべて埋まった。ざっと1万人以上は入っているはずだ。てっぺんから見るその景色は壮観なものだ。
そろそろ時間だ、一斉にライトが消された。残されたステージライトに照らされてE・クラプトンとそのバンドメンバーが姿を表した。会場からは大きな拍手と歓声が上がる。そこに、目の前にE・クラプトンがいる、それだけで心が震えた。
手に取ったクリーム色のストラトから強烈な音が会場に響き渡る。会場は沸き立つ。
ブルージーな曲がストラトから発せられ、会場は一体となってその波に揺られる。次に手にしたのはマーティン。やはり気持ちが入り込んだのは「ティアーズ・イン・ヘブン」、右隣の女性がすすり泣きだした。曲の背景を考えるとそうなるのもうなずける。ハンカチを差し出そうかと思ったがトートバックからティッシュを出したのが見えたので、止めた。
アコーステックギターをスタンドに置くと再びストラトを手にした。
ワンダフルトゥナイト、などなど往年の素晴らしい曲が続き、レイラで会場はヒートアップした。私にとっては夢のような時間だった。E・クラプトンが目の前のすぐそこでギターを奏でて歌っているのだ。昨日までの私にはとても考えられない現実なのだ。その世界的ギタリストが奏でる旋律の渦のような塊に身をゆだねることが出来たことを忘れる事はないだろう。
館内にライトが灯り、夢の時間は終わりを告げた。
ふと我に返った私は気が付いた、オシッコがしたかった。このままトイレに寄ってからホテルに向かおう。そしてビールでも飲もう。明日は早い。

コラム一覧

ティーバード ブログ&コラム