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第222話  大晦日の夜は何かが違う

  大晦日、暮れの喧噪をよそに、郊外は午後5時を過ぎると車の往来も途絶えてひっそりと暗くなる。今年はこつこつと、空いた時間を使ってまめに掃除をしてきたおかげでその時間にはおおよその営業的残務は皆無、あとは福袋のセッティングをして終了である。
6時には方が付いていた、とても早い。
いつもなら掃除にたっぷりと時間を取られてなんだかんだで8時を回ったりしていたから、2時間という大晦日の貴重な時間を有効に使えると思うと嬉しいものだ。
すべての業務を終えて今年最後の勤務終了、皆さんの労をねぎらい解散したのである。
大晦日恒例の格闘イベントを見ながら一杯と決めていた私は、家に帰ってテレビをつけると、どうやらまだその格闘イベントが始まるには時間が少し早いようだった。どのチャンネルをピックしてもその気配すらない。
仕方なくも興味のない番組を、チャンネルを変え変え見ながらビールを飲んで時間を費やした。一年の締めくくり、この大晦日の夜は、唯一であり貴重であり解放である。肩の荷をそっと玄関におろしてほっと一息つける夜である。
ビールが空いたので私は次にハイボールを作ってちびちびとやる。ゆったり出来るいい時間が流れる。ぱっとしない各番組を肴にハイボールが進み貴重な時間が流れていく。しかし今夜はいつもより2時間も早く楽しめているから気分は悪くはない。ただ、一向に格闘イベント番組の気配すら感じられないので、調べてみる。
格闘イベントはどうやら民放ではやらないとの情報、軽いショック、放映するらしいアベマTVの情報を見てみると、チケットを買ってどうのこうのとやや面倒な操作が必要との事、大晦日の静かなひと時、この期に及んで面倒な操作をするつもりなどさらさらない私は、そろそろ始まる「紅白歌合戦」に標準を合わせることにした。
仕方がない、今大晦日はこれで行こうと覚悟を決めてNHKへとチャンネルを飛ばす。
2022年大晦日、紅白歌合戦が始まった。
紅白歌合戦をオープニングから見るのは50年ぶりかもしれない、な~んて秘かに思う。
ビール1本にハイボール数杯、気分は上々だ、大泉洋&橋本環奈の流れも滑らかで心地よい。いいじゃん、って思う。
以前のようなわざとらしい白組紅組の隔たりは感じられないが、それがまたいい。進歩した令和の演出は見るものを飽きさせたりはしないようだ。
あっという間に時間が過ぎ去り、ウイスキーボトルがすっかりと軽くなった。
すべてが良かった、リアルタイムの楽曲も良かったし懐かしいところも素晴らしかった。どの曲がどうのこうのではなくどの人がどうのこうのでもない、そこにいるアーティスト達が織りなす色彩と空間と時間がすっかり心地よく、スペシャルな時間をもらっているという愛おしい気持にさせてくれた。格闘イベントを見損じたことが、いい方向へと私を導いてくれたようだ。
「紅白歌合戦」、ネームは古いが内容は進化していた。何だかじんわりと日本の良さを感じられた特別な夜だった。
あの熱気溢れるNHKホールの余韻冷めやらずの私は、その後ユーチューブに舞台を移し、懐かしい楽曲の宇宙を飛び回り、元旦明け方までも彷徨ったのだった。

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