Column

第218話  歯は大切に

  そう言えば、以前から幽かにぐらついていた。
仕事の忙しさにかまけて、「まだ大丈夫か」と歯科医院に行くのをためらっていた。
そこは確か、10年以上も前に差歯にしたところだった。幽かにでも動くという事は、土台はすでに根から分離していたのだろうが、両脇の歯になんとか支えられていて抜け落ちてくることは無かったから、まだまだと治療を先延ばしにしてものだった。
それが、ある日の朝に突然に抜け落ちた。
「やばい」、そう焦った。
口を開けると見えるところだったから、すぐの治療が必要となった。その午前うちに歯科医院の開く時間を見計らって予約を入れた、運のいい事にその日の治療を許された。
もう一度接着すれば大丈夫だろうと軽く考えていた私に、先生は衝撃的な言葉を言い放った。
「これもう根っこがダメになってるから、抜かないとだめだね、根っこは使えないよ。」
なんと、すでに歯元の根っこの部分が痛んでしまっているのか、軽くぐらつき始めてから半年くらいはほっといたからそれがいけなかった、ぐらつきを認識したらすぐにも治療に来るべきだったのだ、後悔先に立たずとはこの事だ、情けない結果だった。
その日のうちにその歯の根っこは抜かれてしまった。
そしてすぐには治療を進めることはできない。その抜歯での歯茎の傷が元通りに完治するまで約1年、私はその歯のない状態で待ったのである。
「どうする、ブリッジにする?」年配の先生は私に聞いた。
私は歯にまったく自信が無かった。
その抜かれた歯の両脇の歯も差歯だったから、仮にブリッジにして新しく差歯を入れた時に、不運にもまたどちらかの歯の根元がぐらついたらどうしよう、そうなれば今度はその被せたブリッチを外すために2本の歯を同時に削るという大掛かりな治療が必要となる。
私はしばし迷い、そして言った。
「先生、部分入れ歯にしてください、しばらくそれで使ってみます。」
部分入れ歯なら現状の差歯はそのままに、隙間のところを埋める歯をはめ込む形で使う事が出来る。それが簡単に済みそうだった。案の定、翌週には完成してそれを装着することが出来た。
初めての部分入れ歯、これはそうとうに面倒だった。
まず見た目が悪い、なんだかたっぷりと年老いた感が否めない。そして難題は固めの食物は避けなければならないのと、食事ごとの着脱と洗浄がなかなかに大変なのである。
それでも我慢と、2年程使ったある日。
部分入れ歯の片方を支えていた歯がぐらついた。やはり来たか、と思った。
これはやばいと速攻で歯科医院へと急ぐ。
速さが幸いし、土台がぐらついただけで根はしっかりとしている様子で一安心。被せの交換だけで済みそうだった。
そこで私は考えた。新しく土台を作成してその根に装着するのなら、この際思い切って、どうせ今回で使えなくなった部分入れ歯の再製作は止めて、初期に提案してもらっていたブリッジで行ってみようかと。
なんだかんだの時間を経てひと月後、ホワイト色のブリッジが装着された。
なんだか嬉しい、まず見た目がきれいだ、そしてあの多々な面倒から解放されたのは本当に良かった、もう着脱する手間はないと考えるだけで頭の中は爽やかだ。
これを機に歯を見直そう、以前治療したまま時間の経ってる歯を総点検してもらって悪くなっているところがあれば順々に直していこう、それがいい。
秋晴れの青く高い空を眺めてしみじみ考えた、歯って大事。

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