Column

第185話  続く長い歩み

  「昨日はM市のWさんとこに寄ってきましたよ。」
出張でここ八戸に到着、本日から2日間程滞在する予定になっていたJのTさんは言った。
M市にあるこの店の事については、卸をしてもらっている共通のメーカーがいくつかあって、以前からよく耳にしていたところだった。それこそ私が店を創めたあたりの頃からだったから、聞きなれてもいる、と言ってもいいところだった。
「Wさんってそうとう長いんでしょ。東北ではトップレベルに歴史あるショップなのはよく聞いてる。」
「そうですよね、たぶん50年以上はやってるはずですよ。」
「へぇ~それは長いね、その創世記だとまだまだ個別にアメリカあたりに直接買い付けに行ってるところはここ東北じゃ 極端に少ない時代だよね」
「そうだと思いますよ、インポートでは先駆け的存在ですよね。確か、オーナーさんは今年で75才だったかな?今でも現役で店に立ってますからすごいですよね。」
「へぇ~それは確かにすごい。とてもまねのできる存在ではないね」
そんな会話で店のオープン前数十分を共有した私たちは、ちょうど時間となったので店を開けた。この2日間はJの商品ラインナップを一同に集めたポップアップショップを店内に展開して、その商品説明と販売を兼ねての存在がTさんだった。
なかなか客足の伸びない時期だったが、それなりの販売が出来たのは良かった。Tさんはほとんどの時間を現場に費やし頑張ってくれた、ありがたい。
2日目も同じように営業に集中しながら目まぐるしい時が刻まれ、気が付けば夕方5時。
2日間の出張仕事を無事に終えてTさんは幹線上の人となった。
この夜、ひと仕事を終えて家路につき、ホッとひと息ついていた私の脳裏に、Tさんが言っていたWさんの事がぽかりと浮かんだ。50年以上、このアパレルショップを地方都市で続けている店っていったいどんな店なんだろう、そしてどんな人がその店をやっているのだろうと。いい機会だった。そして明日は私の休日なのだ。
翌日、早朝に私は車で家を出た。
高速に乗り、目的地はM市、私はそのWさんを訪ねてみることにしたのだ。
初めてのM市だった。
ナビにその店の電話番号を入力し、案内通りに進む。初めての場所は慎重になる。
車2台すれ違うのがぎりぎりなほどに細い路地に侵入すると、ナビは目的地に到着したとひと言発してその機能を止めた。
目の前には重厚な歴史をまとった木造の建築物が横たわっていた。
戦前の建物だろうか?私は時代的なその建築物を前にして全く初めての訪問ではあるがなぜかほっとする懐かしさを感じていた。不思議なものだ。
道路を挟んだ店の前の駐車場に車を止めてその玄関のドアを開けた。
見慣れたメーカーから初めて目にするメーカーの洋服や雑貨が所狭しとならぶ。外観同様、店内にもその懐かしさと言う淡色の空気感が漂う。私のような若輩者が言葉するにはおこがましいが、ちょうどいい空間を堅持したいい店だ。
「何か探してるの?」
オーナーと思われる方が私に声を掛けてくれた。
私はその店を体感して、そしてひと回り様子を覗ったらそのまますぐに帰るつもりでいたのだが、その一言で立ち止まった。
気さくな方々だった。
来店した経緯を掻い摘んでお話しさせてもらい、そのうえで店内も十分に拝見させてもらった。そして今まで歩んできた出来事を圧縮した形で面白おかしくもお話して頂いた。なにより、元気で淀みのない物言いが年齢を感じさせない。現役で仕事をこなしている強みだろう。ここは地元にしっかりと根を下ろし、長らく通って頂ける常連のお客様がたくさんいらっしゃるのだろうと思った、それでなければこれほどの歴史は到底刻めない。
「こんにちは~」
そうこうしていると、ひとりの女性客が来店した。
「あら、いらっしゃい」
カウンター内で仕事をしていた女性スタッフがそう言って女性客の傍に歩み寄った。
そろそろ私の帰る時間が来たようだ。
店の営業の邪魔になってはいけない。
今回の突然の訪問のお礼を十分にしてから、私は店を後にした。
爽快な気分だった、そして私には到底まねのできない生き方だと素直に思った。
度量の違いは歴然としていたし、そこまでの一途な方向性を残念ながら優柔不断な私は持ち得てはいなかった。そこにはぶれない精神的な強さが存在していた。
それにしても、いい経験をさせてもらった。思い切って車を走らせて来てよかった。
帰路、国道4号線は空いていた。そのまま高速へと進路を進め、懐かしい音楽だけを封じ込めたSDカードを差し込んだプレイヤーからはユーミンの「卒業写真」が流れた。
人生終盤、私はまだまだ迷いの中にいた。

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