Column

第154話  思い切って

  未だクロールに自信のない私。
せっせと週いちプールへと通っているのだが、なにせ自己流、何が正解かを知らないままのスタイルで泳いでいるのだが、それはどうなんだろう。なんて思いつつも、取合えず前方には進んでいるのだから、それはそれでいいのかもしれないが、疲労感が半端ない。
25メートルを一本泳ぎ切ると、ヒーヒーハーハー息が上がる。
それを何本か続けていても、いっこうにひと休みしてからでなければ次に進めない。
これでは到底トライアスロン挑戦なんて夢のまた夢、絵空事で終わってしまう。
そんな苦悩ど真ん中での隣のレーン、明らかに私よりも一回り以上は年上だろう白髪のお父さん、さっきから見ているとゆっくりと優雅にクロールを泳いでいらっしゃる。
私が気にし始めてからゆうに10往復はしているはずだ。一定のペースを乱さずに静かに正確に、しかもその泳ぎに疲労感という重いオーラは皆無だ。
腕の振りもゆっくりと、まるでスローモーションの「映像」を見ているかのようだ。いったいどんなスタイルで泳いでいるのだろう。
私はバランスのいまいちなクロールから平泳ぎに変えてその隣のレーンを泳ぐお父さんを観察することにした。
腕は相変わらずスローなブギーで水をかき水面にふわり挙げた腕はこれまたゆっくりと大きな弧を描いては入水して前方に伸びていく。そして驚いたことに足の動きの少ないこと、腕が一回りする間に片方の足首がプルンといちど水をかく程度。大きな動きはほぼないに等しい。
泳ぎとはそんなものなのか、今更のカルチャーショック。
バタバタバタバタと懸命に足を上下に全力で振り続ける私のスタイルとはまったく別物だ。
そこで、ふっと気が付いた。
「そうか、この懸命のバタ足が原因でこんなに疲れてしまっているのか」
よし、次はそのお父さんの方法で泳いでみよう。
と、挑戦するのだがタイミングが合わない、やはりそんなにすぐにはうまくいかないものだ。にわか仕込みですんなりとクリアー出来るほどスポーツは甘くはない。とにかく体力を温存しながら長く泳ぐという事を心掛けながら続けることが肝心だ。
練習練習、それしかない、やっぱり。
週いちコツコツ。
続けることの4週目、なんだか腕振りと足振りのタイミングが少しばかり合ってきたような。休まずに泳ぐ距離も少しばかり伸びてきた。
練習練習、コツコツコツコツ。
どうやら以前よりは水に対しての慣れが徐々にではあるが身についてきたような、気がする。それでも一定のペースで300メートル500メートルと泳ぎ続けるにはまだまだ、一朝一夕に仕上げられるほど簡単でないことは理解している。あと2ケ月、難しいか。
いっそチャレンジは来年にしようか。
いやまてまて、そんな悠長な逃げ腰では大きな一歩は踏み出せやしない。今のところこんな不甲斐ない泳ぎではあるが、大会までにはまだ2か月という極めて中途半端で切羽詰まった猶予期間だけはある。こんな、期末テスト中の数学のテスト、残り時間10分であと3問、的、出来そうでもなんやかんやと計算に時間がかかりそうで間に合うのか間に合わないのかの瀬戸際的心理状態でのラストスパート。脈拍は激しくビートし赤い血潮は血管を押し広げて循環していく。
ええぃ、申し込んでしまえ。
無謀にも、私はエントリーを決断、あとは必死に練習あるのみ。なにせ大会出場料15000円、マラソン大会などに比べるととても高額な出費だ。
これを不意にするわけにはいかない、から、練習練習、また練習することだろう。
そして、生きて帰って参ります。

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