Column

第138話  30

  2016年、今年の5月でティーバードは創業から30年目に突入する。
移ろいやすい世相を想えば、よくもまぁ続けてこられているものだと感慨深い。
ビジネスのいろはすら理解できていない素人が、思いつきで後先考えずに始めた小さな店がなんとかいやはや30年、ひとえに世間の皆さまの温情に感謝あるのみ。
しかし今となっては、オープンした初年度の暗中模索的悪戦苦闘を思い返すと背筋がぞっとする。思惑通りに進む訳も無く、思慮深く冷静な人間であればそこで自分を見つめなおして「あきらめ」の決断を下していてもおかしくはない超低空飛行、なにせ肝心の来客がほとんどないのだから。
貧素な草木がこんもりと生い茂る小さな裏庭でタバコをふかしてはその草木と会話し、高く透き通る空を見つめてはぼんやりと滲んだ雲を追い、腹が減れば朝に作ってもらってきたオニギリをパクリ、時折裏庭側のドアを開けて店内をちらり覗いては来客の有無を確認するといった具合の繰り返し、ずいぶんと能天気なものだ。
それでも現実は、支払いと言う悪魔を容赦なく送り込む、じわり切なさが胸にしみるが仕方がない、辛抱して頑張るしかない。乗り込んでしまったおんぼろ船はすでに大海原をぷかりぷかりと漂ってしまっているし、すでに安易な後戻りはできないだろうけど、果たしてなんとかなるのか、な?
無鉄砲なぷかりぷかりで漂流5年。
うす暗い雑貨屋は色彩の入った洋服屋に変貌しつつあった。
古着とちょっとした今の洋服も売っているような。雑貨オンリーだった頃よりは少しばかり来客が増えたような、そうでもないような微妙な感触。古着はネルシャツとTシャツとハワイアンシャツとLevi’sレギュラー501で、それがすべて。
この時期、Levi’sに関して言えばビンテージのブームが到来していて赤耳以前の物が急激に値を上げてきていた。XXと呼ばれる人気の物などは20万円30万円から100万円とか200万円とか、異常な値上がりをしていたものまであった。
到底仕入れなど出来る値段ではない。
ビンテージデニム高騰のこの90年代初頭、満を持して登場し世間を席巻したのがレプリカジーンズである。ビンテージデニムを糸から染めから、そして構成ディテールから徹底的に研究してその経年劣化における美的変化を再現、それを生産する多くのメーカーが姿を現してきた。
ご多分にもれず私もそのレプリカジーンズを扱うようになった。それがちらりほらりと売れてくれて、そこでなんとか息が出来る店になったような。
あのレプリカジーンズブームが無ければ現在こうしてやっていたかどうか定かではない。

この頃では、その若かかり頃に来店してくれていた方々が時を経て再び来店してくれるケースが目立つ。洒落たミドルが成長した子供達と一緒に来店してくれる姿もざらである。なかには自身の若かりし頃の洋服を子供達が自ら欲して着てくれていると言う話も聞くからおもしろい。それを考えると、時代の流れと自身の趣味嗜好の変化によって着なくなってしまった洋服は大事に取っておくのもひとつかもしれない。
右往左往と30年、2度程場所は変わり、取り扱わせて頂いているメーカーも以前に比べれば随分と増えたが、基本的に店としてのポリシーに大きな変遷はない。
ぶれずにコツコツと、これだけが身上だ。
そして今年、新たなメーカー2社の加入と少しばかり考えているアニバーサリーグッツがある。それ以上大げさな事は何もないが、そんな新たな展開と記念的商品もちらほらと出していけたら幸いである。
根を張ったここ八戸で地道に歩みそしてじわりと進化し続けて行ける事が本望である。CLOTHES MAKE THE MAN
これからもどうぞよろしくお願い致します。

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