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第132話  それは、システム

  木漏れ日が風にゆれながら瞬き、あたり一面に降りそそぐ。
眩しさに私は目を細め、この心地よい大気を体いっぱいに浴びながら時を滑るように進む。
ウィークデイながら、初夏のこの温暖な気候につられてだろうか、観光客の多さには驚く。
今年初の十和田湖、いつ訪れても一息つける落ち着きのある美しい湖。
その観光客でにぎわう奥入瀬を抜けてから子ノ口には寄らずに国道を道なりに左へとすすみ、右手に見えてきたマリーナも素通りし、前方にバイパス路が見えたら展望台方面を目指して三叉路を右へと入る。
すぐに目に入ってきたのは「カヌー体験」の小さな手書きの看板、ここだ。
シーカヤックで時々海に出ている私ではあるが、ここで体験できる「カナディアンカヌー」に関しては全くの未経験、そこで今回、それの体験のためにここに足を運んだ。
背の高い木々の間を縫うように、車一台がどうにか通れるほどの細道を進むと前方に瀟洒なロッジが数件姿を現した。そのロッジのすぐよこにオフィスと思われるベランダを擁した大きな建物が見えた。
その建物の前まで進むとこちらに向かって手を振っている人懐こい八州君の姿があった。

「さぁ、さっき教えた感じで湖に出ましょう」
八州君はその無邪気ともいえる純粋な笑顔で私に向かってそう言った。
私の乗った緑色のカヌー、湖に浮いている感覚は、それは慣れたそれなのだが、左側面にパドルを沈めてひと漕ぎ、んっ、なんだ、カヌーは思いっきり右へと進路を変える。あわてて元に戻そうとしてもどうすれば?あっそうか、さっき八州君が言っていたがパドルを縦に立てるのか、パドルをカヌーの側面に着けるように縦にして止めてみる、すると右へと流れていた進行が停止した。
パドルはパドルとして漕ぐ役割なのだが、この「カナディアンカヌー」ではラダーの役割をも担っているのか、私は大いに感心してしまった。
「システムですよ、システム。それがわかればあとは練習ですよ、身に付けばカヌーはスムースに前に進んでいきますよ」
力強いパドリングでいとも簡単に前方に進みながら八州君はそう言った。
しっかりとすぐにもそのシステムが身についたわけではないが、それなりに前へと進むようになり、時々右旋回しながらも小さな旅ができていた。小さな船でなければたどり着けないような小さな入り江まで行って帰ってくる、まるで秘密の冒険、それはやはり私の探求心をくすぐった。そして湖はどこまでも深く神秘的で魅力的なものだった。

「システム」か。
あの体験から数日、私はあの時八州君が言っていたその言葉を思い出していた。思えばどんなことに対しても言えることだ。物事が進んでいくためにはシステムの構築が重要なのだ。そのシステムさえしっかりと構築してしまえば、物事はある程度順風に回っていくだろう。「システム」それがすべてではないことも重々承知できる、推し量れない偶発的事故に対してはその都度対処し解決していけばいい。基軸としての「システム」作り、それが大事だ。
そうか、あれにはまず、それに力を注いでみよう。

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