Column

第99話  ついに

  心密かに待ち焦がれていたバイクのカスタムが仕上がったとの連絡が入った。
胸が踊った。
「う~ん、なんかなーそろそろ、もうちょっとだけ、もうひとまわりだけ大きいバイクってやつがいいな~って感じ?」
まだまだ気温も高くむし暑いあたり、人生のちょっとした節目を向かえた私は何気なく、それとなく、わざとらしく、そよそよとそんなふうにさえずってみた。
「えっなに、バイク・・・・・・まぁ・・・いいんじゃない!」
天上界からのあっけない御言葉。
この鷹楊でいて何気無い返答、ひょっとしてその脳内スクリーンにはカラフルな小箱に入ったプラモデルや手の平サイズのミニカーが浮んでいるのではないのか?もしそうだとしたら・・・いや待て、ともあれその平穏で心地よい響きは私にとって千載一遇のおおきなチャンスの到来を告げるものではないのか。
そうそう、この期を逃してはいけない。
「本当に乗る奴だけど・・・」な~んて野暮な事はいっさい口にせず、私は早々にベース車両を見つけ出す作業に取り掛かった。
1903年創業、100年以上の長い歴史をもつそれには、その視覚的特長から「フラットヘッド」「ナックルヘッド」「パンヘッド」「ショベルヘッド」などと称される、旧型で芸術品とも言える美しいモータータイプが存在する。それらは優柔不断な私を魅了し誘惑し続ける。
だが、これらに迂闊に手を出してはいけない。これらがまたメカに弱い素人にはことさら厄介で、美しく気まぐれな女性程に手間と金が掛かるのは見え見えだ。
さらにビンテージとしての希少性がその価格をも高額な域へと押し上げている。
熟慮の末、ワンカム最終型であるエボリューションと呼ばれるタイプに決めた。エボリューションとは「進化」という意味がある。
歴代のワンカムエンジンもそれぞれに改良を加えられより良いものへと推移して来たが、この機はその中での最高傑作であり、はたまたその会社の飛躍を担ってきた名機と言っても良いだろう。
しかし、しかしである。
このモーターは「エボ」などと簡略的に呼ばれ、前記した歴代のモーターにある「○○ヘッド」の愛称が無いのである。
それではあまりにも無念であり不憫ではないか。
そこで私は私の持ち得るあらゆる感覚を研ぎ澄ましその難題と対峙する事にした、このモーターの将来の為に。
考え続ける事数カ月、それはまるで青空に漂う白い雲のようにポッカリと脳裏に浮んだ。
命名「ロボヘッド」。
ロボはジャイアントロボのロボである。そう、1967年にテレビ放映が始まった横山光輝作のSFマンガの主人公のロボットである。モーターヘッド全体がそのジャイアントロボの頭部そのものと言っていい程に似ているのだ。
また、その力強い語感もなかなか素敵ではないか。
もちろん現在は私だけがそう呼んでいるのだが、数年後にはこの愛称がグローバルなものになっている、と信じている。まずはここからスタートとしよう。
そしてついに、覚悟の時が。
本当の事、「本当に乗る奴」を注文していた事を天上界へと告白する時がやって来た。すんなりと行くかどうかは皆目見当もつかない、が、「頃合を見計らって」と言ったところだ。
あせっては・・・いけない。
ドアを開けよう!
そこには新しい世界がひろがっている。五体満足平穏無事に事が運べば、この「ロボヘッド」を駆り目の前に広がる眩しい陽光の渦の中へと飛び出すつもりだ

*2008年夏の事だが、現在も私は元気でやっている、セーフ。
(デーリー東北連載・第10話「とうとう」より)

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