Column

第89話  感謝のきもち

  震災から2日目の夜、このまま店を続けて行けるのだろうか?と、先の読めない盲目的不安が私の頭のてっぺんから足の爪先までの全てを支配しつつあった。

時刻は午後9時を少しばかり回ったあたりだった。外気はすでに0℃に近い。ガソリンの節約の為もあって車のエンジンは切っている。私は少しでも体を休めようと、ドライビングシートを倒して毛布をかぶり横になっていた。
と言うのも、三沢市近郊の被災地では火事場泥棒や暴漢などの危険なやからが多数出没しているらしく、家財の持ち逃げやらATMを破壊しての現金の強奪などの被害が報告されていた。この暗闇にどっぷりと包まれてしまったらしい無防備な世界のなかで、私はなんとしてでも店を守らなければと店の前の駐車場で夜を過す事を決意した。寒さは容赦なくやって来るが、家を流された方々、親族や友人を亡くされた方々、ましてやその大切な命を奪われた方々の事を考えるとこれくらいの状況で弱音を吐く訳にはいかない。
電気が戻ったのは4日目の明け方だった。
ふと目が覚めた私の目に小さな外灯がひとつ灯っているのが映った。初めはただの日常的な風景としかとらえていなかった寝惚けまなこの私だったが、数秒経って「いやそうじゃない」と気付いた時には、血がおどった。
直ぐに飛び起きて控室のストーブに火を入れてみた。快活な電子音がストーブ内で鳴り響くと次にオレンジ色の炎が熱風と共に吹き出した。
暖かい。

タイミングが良いとか悪いとかはともかく、この時私達は半年前からの予定において、店の引っ越しを控えていた。この震災における大混乱の最中、果たしてどのように行動すれば良いのか一時選択を迷ったのだが、親しい友人達や寛大な運送会社、また前向きなスタッフみんなの協力もあり、その引っ越しを敢行する事にした。結果などは考えたところでわからない、今できる事を成した。
そのあと・・・私達はじっと待つ事にした。
表立って何かできる事など何も浮ばないし、またできる状況には無い事も充分にわかっていた。ただじっと待つ事だけが肝心の様に思えた。そしていつか、この悪夢の様な大惨事が遠い過去の出来事へと移行できるようにと祈り続けた。

それから幾日が経過したのだろう、ぽつりぽつりとお客様の姿を目にする事ができるようになった。もろく、あきらめにも似た心理的葛藤の闇のなかに小さな明かりが灯る。そのほっくりとした明かりに少しばかりの勇気が湧き上がる。「しっかりやらなければ」と自身に喝を入れる。
そんな混沌たる日々の繰り返しの延長線上に、今を与えられている。
今こうやって仕事が出来ている事は、本当にありがたい。
感謝のきもち以外なにも持ちえない。

こうして今があるのは、やはりこの移転先までわざわざ足を運んで下さる皆様のおかげであり、また個人個人が被災にあわれながらも前向きなその力強さを拝見させて頂いているからであります。とても心強いかぎりです。
そしてまたこのホームページを御覧になられての数々の御支援、どれだけ助けられたか御恩の程は計り知れません。本当にありがとうございます。
私達は、目の前にある私達が今出来る事に一生懸命取組んで行くことだと信じ前に進もうと思っております。2011年は生涯忘れる事の出来ないきびしい年となりました、が、2012年は皆様にとってこの困難を乗り越えたよりよい年が訪れる事を願って止みません。
これからもどうぞよろしく御願い致します。

ティーバードスタッフ一同

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