Column

第86話  ロングロングタイム

  ミッドセンチュリーと呼ばれる、アメリカが最も輝きを放っていただろう1950年代前後。豊かで希望に満ち溢れていたこの時代に生まれた「MADE・IN・USA」すべてに私は憧れていた。
1973年に公開された映画「アメリカン・グラフィティ」の影響がかなり大きいようだ。映画館の大型スクリーンに映し出された華やかなる物質文化とその世界観は瞬時に私の魂を虜にした。
濁声で唸るウルフマン・ジャックに活気に満ちたメルズドライブイン、ホット・ロッドかっ飛ぶシグナルレースに謎めいたTバード、どれをとっても衝撃的にカッコ良かった。
  ロック・アラウンド・ザ・クロック、ランナウェイ、グレイトプリテンダー、カーラジオから流れるロックンロールにもどっぷりと浸かった。めっぽう多感な年頃だった私はリーゼントスタイルの研究にも余念がなく、エルビス・プレスリーの写真集を参考にその形を作り上げていったものだ。そんなだから、必然的にその古き良き時代の色濃く残るグッズを収集するようになった。
  それらの多くは長い年月を経ても全く輝きを失わず、それどころか増々威光を放っていく。チャールズ&レイ・イームズ、ジョージ・ネルソン、イサム・ノグチなど今なお世界中に数多くのファンをもつこれらの家具デザイナー達も、この繁栄期次々と生み出された新素材と持ち前の才能を駆使し数多くの優れた作品を発表している。それらは斬新奇抜な魅力に溢れ、現在に至っては経年変化による重厚さが加わっている。
  また、当時の工業デザインにおいての極めつけはやはり車のデザインだろう。大型で優美なストリームラインにメッキをちりばめた華麗なスタイリングはアメリカ文化そのものと言っても過言では無い。スクリーンの向こう側、メルズドライブインに集まる車達の美しさにはすっかりと心奪われたものだ。
  そんな中、私が最も愛して止まない身近なアイテムとしてはジーンズがある。ビンテージと呼ばれる当時のオリジナル501XXに収入の大半が消え去った時期もあった。これこそ経年劣化の妙を肌で感じられる逸品である。使用するデニム地は縦糸にインディゴで染色された綿糸を使用している。そのインディゴは繊維への定着性にやや難があり、着用時の擦れや毎回の洗濯等によって薄れていってしまう。その結果、綿糸の芯に残る白色の部分が浮き出て来ては全体に細やかな縦縞のコントラストを作り出す。これが俗に言う縦落ちだ。裾にはアタリと呼ばれる彎曲した皺が波打ち、ボタンフライの両側にはヒゲと呼ばれる艶かしいラインが無数に姿を表す。何年も何年も履き込んでここまで辿り着くと、それは既に「芸術品」となりえるのだ。
  永遠で絶え間無い時の流れ、どうやらそれは成熟され行く過程と完熟たる美しさ、そしてまたはかない結末をも万物に与えてくれるようだ。そしてそれが人間にとっても同様なのであるなら、私もそれらアイテム達と共にゆっくりと長い時を重ねてめっぽう艶のある老人に、そう、「ビンテージジイ」になってやるか、なーんて。
  そんなたわい無い思わくが薄暗い天井を駆け巡る晩秋の長く静寂な夜であった。

(デーリー東北新聞連載・第6話)

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