Column

第4話  貧困生活

私がまだ19才で都内に住む苦学生の頃だったと思う。
常にお金には困っており、食うや食わずの生活はあたりまえだった。月中にはすでに小銭
すらなく、あまりにも空腹で部屋中を引っ掻き回し探し出した、いったいいつの物か解ら
ないスープの粉を水に溶かして飲んだりなどもしていた時代である。
もちろんガスコンロなどは夢のお話しであった。

その頃、幼馴染みであるJと言う友人も都内に住み、ことあるごとに我が家へと遊びに来
ていた。
その日もJは、J自身のあまりの空腹に耐えかねて15駅程歩いて我が家へと旅して来た
のであった。玄関を入るや否や「何か食いもんねーか」と 必至の形相で私に向かって懇
願してきた。だが私とて同様、持ち合わせている食い物など皆無である。
そこで二人空腹を抱えて考えてみた。

そうだ、そう言えば私がここへ引っ越す以前に住んでいたアパートで、私の隣の部屋を借
りていた早稲田の学生は まだあそこに住んでいるかもしれないと閃いた。
すかさず、あまりの空腹で思考回路 停止状態のJをなだめ、
「必ず食料を手にして戻って来るぞ」と、かたい約束をして私は出掛けて行った。
その目指すアパートへと到着し、いざ彼の部屋だった所のドアを恐る恐るノックしてみる
と、なんと幸運なことに彼はまだ同じ所に住んで居たのだった。
そう言えば私がまだこのアパートに住んで居た頃、彼は確か早稲田の6年生だった。
すると彼は今、いったい何年生なんだ?…いやいやそんなことは今はどうでも良い。とに
かく食料を頂く事が先決だ。私達の困窮を極めている事情を彼に話し頼み込んでみると、
私達には御馳走である袋ラーメン2個と袋菓子3個
を提供して頂いたのであった。
感激

だが私は私自身の現在の空腹に耐えかねて、もうひとつ彼に頼んでしまった。
御存知のとおり我が家にはガスコンロが無いのである。
気がつくと私は、彼のガスコンロをお借りし2個のラーメンを一度に調理して一気にたい
らげてしまっていたのだった。
私はラーメン2杯分ですっかりお腹がいっぱいになり、久々の幸せな気分を味わう事が出
来たのだ。
そして彼にきちんとお礼をし、3個の袋菓子を大事に抱えてJの待つ我が家への帰路につ
いたのだった。

私はもちろんラーメンの事は一言も口にはできず、Jに向かって
「お菓子貰って来たぞ、俺はいいからお前全部食え。」と言ってJに3個の袋菓子を手渡してあげた。
Jは眼にうっすらと涙を浮かべ「ありがとう、やったなーっ」と何度も何度もうなずきな
がら、実においしそうにお菓子を食べ続けていた。
私は今お菓子を見るのも嫌だった。

「もう食えねー。」

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