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第2話  ポール君という友人

私の友人のひとりに、ポール君と言う人がいた。
いたと言うのも今から35年も前の話だからである。私もまだ小学校4、5年生の頃であ
った。
小学生の頃の遊びと言えば当時はメンコが主流であり、数々のメンコ勝負に勝利し、たく
さんのメンコを所有している者が誰よりもヒーローの時代であった。
もちろん仮面ライダーよりもである。
私も当時、りんご箱いっぱいのメンコを所有しており勝負を挑んで来る者が後を断たなか
った。その中のひとりにポール君がいた。
あだ名はポール。そのままである。
ある日ポールは両手いっぱいのメンコを抱えて、またまた勝負を挑んで来たのである。

「ムカシメンコ」と言い、その当時の物よりもさらに古いメンコにプレミア人気があり、
皆収集力を掻き立てられたものであった。その古いプレミアメンコをチラチラと私に見せ
つけながらポールは立っているのである。私は燃えた。
案の定、数時間後には私のりんご箱の中には彼が持参して来た全てのメンコが収まってい
た。ポールは納得がいかないらしく、私をジッと睨み付けたまま悔しそうにその場にたた
ずんでいた。
そして一言、(ちょっとまってろ、今買って来る)と言い残し我が家の玄関を飛び出した
のである。もちろんドアはあけっぱなしで。

すると2秒後ポールはドンッと言う音と共に空中高く飛びながら帰って来たのである。
確実に3メートル位の高さはあっただろう。

そう、飛び出した瞬間、車にひかれてしまったのだ。

それに向かって

お帰り

などと言える状況ではない事は、幼いながらに一目で理解出来た。
その出来事を一部始終目撃していた、我が家の向かいに住むおばちゃんがすぐに救急車の
手配をしてくれていた。ポールは耳のあたりをおさえながらも、まったく意識はない。
数分後救急車が到着し、ポールは病院へと運ばれて行ってしまった。
その短時間におきた出来事に、私はどうするすべもなく呆然と立ちつくし、勝利品である
メンコをじっと見つめているだけだった。
それから数週間がたちポールが退院したと言ううわさを聞いた。
やはり耳を打っていたらしく、片方の耳の具合が良くないらしい。学校へは通えるように
はなったが、その交通事故後、突然養護学級へと編入させられてしまっていたのだった。
そして動物係りと言う任務を与えられ、うさぎに餌をやっている姿を、私は何度も見かけ
た記憶が今でも鮮明に脳裏に蘇る。
その光景は、小学校を卒業するまでずっと続いていた。
そしてそれから数年が経過し、中学入学の時期だったと思う。なんとポールは普通学級へ
と奇跡の復活を遂げ私達の元へと帰ってきたのである。
それは同時に私の心の隅にあった蟠りがやっと消え去る瞬間でもあった。
良かった、良かった。私はホッとして、そっと胸をなで下ろした。
その後、彼に何度かメンコ勝負を挑まれたが、私はこの頃にはすでにメンコに対する執着
心は微塵も無く消え去ってしまっていた。

ポールよ。大人になった今なら、またメンコ勝負をしてみたいね?
ただ、今度買いに行く時は、右見て、左見て、そしてまた右見てからだぞ。

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