Column

第15話  マリアッチな夜

外は冷たい雪が深々と降りしきる、賑やかではあるが身も心も凍えてしまいそうなとても
寒いクリスマスイブの夜だった。

街行く人々は皆暖かいコートに身を包み、カップル達はコート伝いに手を繋ぎ合い、残業
あけのサラリーマンなどは片手に大きなデコレーションケーキを抱え急ぎ足で家路へと向
かっていた。
そんな時節の折、何の因果か私はK二号そして友人Hと男三人連れ立って、友人Iの営む
小料理屋でお酒を飲んでいた。
クリスマスイブの夜にわざわざ小料理屋で愛を語らうカップルなど存在する訳も無く、お
店のお客は私達だけであった。他愛も無い会話で盛り上がっているその側で、他の来店客
もないだろうと判断し始めたIまでも、私達と一緒にお酒を飲み始めてしまっていた。
私達男4人は徐々にお酒も進み、『今年のクリスマスイブはこの4人で飲み明かそう!』
と意気投合してしまったのであった。
既にテキーラ(マリアッチゴールド)を1本弱空けてしまっていた私の鮮明な記憶がある
のはこの辺りまでである。
確かに断片的には記憶はあるが、ここから先はほぼ翌日聞いた話と残っている記憶をつな
ぎ合わせたものである。

Iのお店を出た私達は、次にIの小料理屋のすぐ近くにあるC.Hと言うカクテルバーへ
と向かったのだ。
そして席に付くや否や、またテキーラを1本注文し4人で2分足らずで全て飲み切ってし
まったのだ。
そしてカップル達で賑わうそのお店の床で私達4人、
なんと腕立て伏せを始めたのである。

だがそこですかさずその行為を止められた私達は、泥酔状態のまま次に無国籍料理店
HGCへと向かっていた。
そこでもやはりカップル達が数組、静かな気の利いた音楽に包まれて穏やかなクリスマス
イブを美味しい食事と共に楽しんでいる様子であった。
私達は、空いた席へと腰掛けた次の瞬間、今度は何を思ったか皆上半身裸と言う何とも
まぬけな姿へと変貌を遂げていたのだった。

そこで半裸の男4人はまたまたテキーラである。

HGCでは、席に着いてからすでに2本のテキーラが消費されようとしていたのだ。
さらに今度は裸の男達の腕相撲大会が始まり、そのあたりで数組のカップルの方々はお帰
りになってしまった。
(申し訳ない)
その後私達はグレコローマンスタイルへと移行し戦い続けたのだった。
まさに戦場と化したHGCは観るも無残にあちらこちらと破壊されてしまっていたのだ。
(ごめんなさい)

そして戦い疲れ、とうとう精も魂も尽き果てた男4人は何ごとも無かったかの様にこのH
GCを後にしたのである。

(ただ、思えばこの時この席でK二号は確か初デートの相手と合流した筈だった。
私もその女性と初めましてのあいさつを交わしたのだ。あの後K二号とあの女性はどうな
ったのだろう?
あの女性とK二号が一緒にいるのを目撃したのはあれが最初で最後だった。)

その帰り道、なぜか私は道路工事中の大穴の底にいた。

丁度HGCの真ん前の道路が工事中で、そこに転落してしまっていたのだ。
無我夢中で這い上がろうと懸命だったが、いかんせん雪で滑ってなかなか地上へは到達で
きない。
それでもなんとか一度は地上付近まで達したが再び雪に足を取られ、また暗い穴の底へと
落下していたのである。
このポッカリと存在する恐ろしい程静寂な暗闇に包まれてあお向けに寝転がっている私の
顔に、深々と振る雪がなんだか冷たくて気持ちが良かった。
暫くこのままの状態でいたのだが、やがて睡魔が襲って来た。

(おいおい寝たら死ぬぞ。)

そこで二度目の登頂挑戦が始まり、やっとの思いで地上へと達した私は、丁度こちらに向
かって走って来る一台のタクシーに手を上げた。
するとタクシーは運良く停車してくれ、後部座席のドアが開いた。空のタクシーだとばか
り思い込んでいた私の目の前に、今度は勢い良く何者かがその開いたドアから飛び出して
来たのである。その人陰に驚いて後退った私は、
こともあろうに再び暗い穴の底へと落下したのだった。

私はすでにボロ雑巾状態であった。
その人陰と言うのはHであり、彼はわざわざ私の為にタクシーを拾って来てくれていたら
しいのだった。
THANK YOU FOR YOUR HELP!

翌日、それはそれは大変だった。
考えてみればHGCは私の店である。
店内はボロボロであった。

あの時分、店を使って頂いたお客様にはスタッフから、そして私はスタッフへと平に頭を
下げて謝った。
思うにテキーラとは人々を陽気にさせる不思議な酒であると同時に酔うと人格をも変え何
を仕出かすか予想も出来ない状態(泥酔拳の使い手)にしてしまう危険な酒でもある。
私はこの時、この日の反省の意味も込めてテキーラを少しばかり止めてみようかな~と真
剣に思ってはみたものだったが、翌日また飲んでしまった。残念!

(しかし、現在では数年前から完全にテキーラを封印しているのだが、そのきっかけとな
った陽気な事件記録は、後々のPART2にて。)

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