Column

第234話 悪い癖

元旦、ここ数年この年初めの日には近場の「階上岳」登山をしている。

山頂から初日の出が見たいとか、何かしらのご利益があるかもしれないとか、健康のためだとかに意識は一切ない。

ただ単に、いつもの休日のようにこの空いている時間に何をしようかと考えた時に、そうだ山でも登ろうと思い立っただけである。大きな意味はない。

それが、思い立ってから数年も続いているのだからそれはそれで面白い。

この登山で感じるのが、元日での登山客の多さである。間違いなく登山決行期間である夏よりもはるかに多いのである。道中すれちがううすれちがう、しかもほとんどが大先輩と思われる人達で男女の数に大差はない。それ程パワーにあふれた年長の人達の遊び場なのである。

 この元日、私は午前10時頃に山の麓を出発した。

あたりには20センチ程に積もった雪があり、その為私はアイゼンを装着し山道へと向かった。案の定、すでに早朝から山頂へと向かっていた人々がどんどん下山してくる。その人達と軽く新年のあいさつを交わしながらすれちがい、私は一歩一歩山頂へと向かって登る。

昨夜の大みそかはそれ程深酒もしなかったので体調は程よい。それ程苦労もなく山頂へとたどり着いた。

いつもの事なのだが、到着後は写真を1、2枚撮って直ぐに下山する。ただ、この日は山頂到着後すぐに激しい尿意に襲われた。以前に岩手山8合目途中で立ちションしてなかなか珍しい目にあった経験が脳裏を横切った私は、この山の中腹にあるトイレへと急ぐことにした。

アイゼンを付けているせいもあり雪の中でも滑ることもなく進めるので、私は走って下山することにした。トレランのトレーニングにもなるだろう。一足踏ん張るたびに膀胱が刺激されて漏れそうになるが下腹部に力を込めてそれを我慢する。そんな小さなパーソナルレースのかいもあり、何とかトイレで用を足すことに成功したのである。

ほっとひと息後、どうせならここからも行ってみようと考え私はそのままの勢いで走って下山したのである。

その翌日の朝であった、右ひざに激しい痛みが走ったのは。

この痛みは間違いなくじん帯の損傷であると確信できた。原因はおそらく昨日の登山だろう、昨日の登山での無謀な下山を私はこの時点で後悔したが後の祭りである。膝を曲げることもままならない、内側に捻ることもできなくなっていた。以前にもあった痛みだった。数年前のスキーで、あの憎きコブでふっ飛ばされた時に負った傷である。あの時は完治に半年以上の歳月を費やした。苦い経験である。あの時は少しばかり痛みが引くと、すぐにトレーニングランに出てはまた痛みがぶり返すといった悪循環を繰り返していた。それで完治まで相当に時間がかかったのである。

今回はその悪しき経験を踏まえておとなしくしていようと決心した。

それから1週間超経過し、初売りも一段落した新年初休日の日。

痛みは少しだけ残っていたのだが、天気も良かったせいもあり、よせばいいのにランに出たのである。調子は悪くはない。もう大丈夫なのではないかと勘違いした私は想定していた距離を大幅に超えたところまで引き伸ばしたのである。痛みはなかった。それはたぶん、大量のアドレナリンのせいだったのだろう。走り終えて数時間後には再び激しい痛みに襲われたのである。悪い癖なのである。解っているのに行ってしまうのだ。以前にも経験しているにもかかわらずの悪癖なのである。我慢が出来なのである。

ただ、数日経ってどこまで治っているのかわからないから確かめたくなるのも人情なのだ。

ただ、ただ、もう若くはないのは理解しなくてはならないと、走れない今つくづくと身に染みている。今回、もう少し我慢して完治出来たらとしたら、まずは無理な行動は控えなくてはならないことが前提だが、もし怪我をした場合取りあえずは何もしないことを第一に考えなくてはならない。もしかして、走らずに歩くだけならいけるかな?いやいや止めとこう。

この悪癖を封印することに注力しなくてはならない。

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