Column

第250話 うすうす

2年ぶりで風邪をひいてしまった。

4月終盤から5月頭にかけてだから、お決まりのいつもの風邪をひく季節とは異なっていた。

例年なら、まず間違いなく2月あたりによく風邪をひく。なぜなら年末年始の喧騒を精一杯やり過ごして、ほんのひと時ホッと一息つける時期、この力の抜けるあたりによく風邪を発症するのである。気が張っていれば多少のウイルスの感染は跳ね返しているのだろうが、事、気が抜けた脱力状態では免疫能力は半減していて、そこに付けてウイルスが幅を利かせるのである。

2025年の2月あたりはどう言う訳か、私は元気だった。風邪っぽいけだるい時もあったにはあったが、難なくやり過ごす事が出来ていた。なぜかは分からないが、やる気を継続で来ていたからだろう、いつもの脱力は不思議となかった。

その後足早に3月が過ぎ去り、次に4月をやり過ごそうとしていたその時、あるイベントが行われたのである。店にとっても大事な恒例のイベントである。その一連の流れの中で、夜、皆で食事をし、その後カラオケへといざなわれたのである。いや、いざなわれたでは誤解を生じる。それは私自身が以前から発案していた事であった。なぜなら、そろそろ無性に大声で歌いたかったからに過ぎない。ここ何年もカラオケとは無縁だった私にとって今回はカラオケに行く事のできる大きなチャンスだったからである。スナック関係には縁遠い私にとって、こんな事でもない限り、そうそう歌える所に行けることは無いのである。

「喝采」、ちあきなおみの歌から始まった。かなり久しぶりのマイクに戸惑い、まったく声が出ていなかった。最後までちぐはぐに曲が進み私の声は後ずさりしてしまっていた。これではいけない、せっかくのチャンスをものにしなくてはいけない。次に長渕剛の「トンボ」で勝負をかけた。本日2曲目、場にも慣れた私の声はいい感じで曲をつかめた。

いいね、なかなかいける。

その後、ザ・モッズ「激しい雨」が流れ出し、私は頂点へと達したのである。

それがいけなかった。

数日後、なんだか喉に違和を感じた。カラオケの後ヒリヒリとしていた喉は日が経つにつれて痛みを伴った。まずい、これはまずい、まさかの風邪の前兆。もしかして、やはりあれか、うすうすと理由は理解できる。あれしかない、遠い昔々もこのような事があった記憶を持ち得ていた。

案の定、その二日後にあっさりとダウンしてしまった。風邪をひくには的外れの、春真っ盛りのとても明るい空気感漂うこの美しい時期に、やっちまったのである。

もう止めよう、ゴホゴホゲホゲホ苦しむ事になるのなら、ましてや皆に迷惑をかけてしまうのなら、カラオケは止めよう。

そう決意を固めた、桜散る春の終わり頃なのであった。

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