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第239話 復活再生

庭には大きく成長しているエゾエノキとケヤキの木が2本並んで生えている。

どちらも二階家の屋根を超えるほどの大きな木である。ゆえに年々枝葉を四方八方に伸ばしていくので、どんどん上へ周りへと大きくなっていく。ほっとおけば隣の民家の敷地までも枝が伸びてしまうので年一の剪定は欠かせない。

剪定は秋も深まった10月あたりがいいと言う事で、その時期、いつもの植木屋に頼んである。スケジュールはその植木屋次第と言う事になる。

10月も半ばを過ぎたころ、その剪定の日がやってきた。いつものように私は仕事に出かけていて、その剪定をのぞき見することは無いのだが、いつもながらに美しい樹形に剪定してもらえているので安心感はある。

翌朝、私はその剪定具合を見るために庭へと降りた。さすがながらに見事な剪定である。全体的に自然な丸みを帯びた樹形は「美しい」と言って過言ではない。

庭に落ちた大量の枝葉も植木職人はしっかりと片付けてある。いつものしっかりとした仕事ぶりである。

ただ一か所、大きな枝がその一角に残っているのが私の目に入った。私はそれを片付けようと横たわっているそれをひょいっと持ち上げた。

絶句、と言ってよかった。

私はその伐採枝の下になっていた植物の惨状に驚いてしまったのだ。そこには、ここ数年私が丹精込めて育て上げていた「ユッカ」の変わり果てた姿が横たわっていたのだから。高さ50cm程にまで伸びたそのユッカが、根元からぽきりと折れていたのである。明らかに植木職人のミスだろう。剪定時、これに気付かずに木の上から切った枝らを次々と下に落としたとみられる。

そのユッカは遠く九州から取り寄せて、大切に露地植えで育ているやつなのである。冬は囲いを作って厳冬期を数年にわたり乗り越えてきたユッカなのである。

私はすっかりと気落ちしてしまっていた。もうだめなのか、黒い絶望が心をよぎる。

私はその無残な姿を晒してるユッカを両手で持ち上げた。すると茎はほぼほぼ折れてしまっていたのだが、その茎の端っこに、1本だけ根がへばり付いているのに気が付いた。手の中のこのユッカはその1本の根で土中とつながっていた。もしやと、私はその根の元を手で数センチ掘り返してみた。根はしっかりと土の奥の方へと繋がっているようだ。そこで私はそのままの形で、折れている茎を元の茎へと押し当て、その周りを新たな土で盛り上げてみたのである。その盛り上げた土によってユッカは直立し、元のような形に戻った。

そこに新たに水をやり諦め半分、しばらく様子を見ることにした。1週間が経ち2週間が経過した。ユッカは枯れだした様子はない。もしやと、希望が湧いた。それからひと月経過、葉は青々としたまま元気な様子、どうやら私の簡易な処置で命をつないでくれたのかもしれない、と感じた。あれから8ケ月が経過し今でも元気な姿で天へと向かって少しづつ伸びてくれている。

ましてや、朗報なのだが。そのぽきりと折れた根側の部分から新たな芽が噴出していたのである。突然茎上部を失くしてしまったと感じたユッカは、ここは一大事と新たに先端を伸ばしてきていたのである。素晴らしい発見であった。新たな芽はここ数カ月で新たなユッカの葉形を構築し、もう一本のユッカとしての地位を築こうとしている。頼もしい限りでならない。初夏を迎え、並んで育ち始めたユッカの兄弟は、今日も元気だ。

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