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第227話  淡い期待は

  2023年5月、猛威を振るった新型コロナも落ち着きを見せ始めたこの頃、3年ぶりに「八戸ウミネコマラソン大会」が開催予定となった。
出勤した土曜日の朝、休校のふたりの孫は何も予定がなければ会社に顔を出す。その時、さりげなくマラソン大会に興味があるのかふたりに聞いてみた。すると小3のHが興味を示した。小6のTは全く興味がない様子で聞き流された。
Hは昨年学年別マラソン大会で優勝しているから、走りはなかなかとくい分野だろう。
そうなれば、私も考えなくてはならない。
試しに聞いてみて、孫が出る気がないのであれば、久しぶりにハーフにエントリーしようと考えていたのだが、出てくれるのであれば話が違ってくる。
小学生は確か3キロのコースがあり、それに伴走者として成人が参加できる。兼ねてから走れるものなら一緒に走ってみたいと思っていただけに、これはチャンス到来である。
翌週の土曜日にも再び確認すると走ってもいいとの事。
早速エントリーの運びとなった。まったく楽しみである。
それから待つこと数週間、とうとうマラソン大会まであと3日と迫った木曜日。マラソン大会は日曜日、ただ気がかりなのはこの土曜日がHの小学校の運動会であり、その土曜日が雨なら順延で翌日の日曜日が運動会となるということだ。天気予報を見ると、明日金曜日に雨のマークがあるが土曜日は曇りで日曜日は晴れマークだった。
近々の情報だけにそう大きな違いはないだろう。案の定、金曜日は朝から雨が降っている。予定通りだ。この調子で夜から雨がやんでくれれば上出来だ。雨さえなければ運動会は出来るだろう。私は安心しきっていた。
よく土曜日、私は激しい雨の音で目が覚めた。時間は午前4時を少し回ったあたり、ベッドから起き上がり、窓から外を眺めると容赦のない雨が天から降り注ぐ。
まさか、私は残念な気持ちになった。このまま雨が降り続けば間違いなく運動会は順延となってしまうだろう。
窓からの雨模様を見届けた私は、ベッドのある2階から1階へと降りて、取り合えずテレビをつけた。NHK天気予報画面をピックして八戸の情報を眺めてみると、やはり雨ではなく曇り予報になっている。もしかすれば早朝のこのあたりから雨は止みだすかもしれない、と期待ができる。画面を地方局に戻した後、私は洗濯機を回し、牛乳をグラスに注ぎ、そしてソファに腰かけた。
テレビではエンジェルスの大谷が投打二刀流で頑張っている姿が映し出されていた。本当にすごい奴だ、とつくづく思う。彼はすでに日本と言う島国から、さらにはメジャーリーグと言うメジャーステージさえも飛び越えた世界的なスーパースターへと躍進している。日本人として誇りに思えてならない。これからも怪我無く突っ走ってもらいたいものだ。
テレビの前でそうこうしているうちに窓に明るさが戻ってきていた。
外に目をやるとすっかりと雨は止んでいた。
私に希望の2文字が湧いた。どうやら天気予報は当たってくれてようだ。この早い時間に雨が止んでくれているのなら運動会は出来るだろう。
そうなれば明日のマラソン大会は孫と一緒に走ることが出来る。楽しみでならない。
時間は午前10時、朝のルーティーンを一通り済ませた私は仕事に向かった。もちろん天候は曇りのまま、雨の気配は見当たらなかった。それでいい、心は弾んだ。
出社して暫くたつとスタッフがぽつりぽつりと姿を見せ始めた。その中に、運動会に行っているはずの息子たちの姿があった。
「あれ、運動会どうした?」
「あぁ、校庭にまだ水が溜まってて延期になった、明日もだめなら明後日やるんだって、あそこ水はけが悪いんだよ、ほかの小学校は今日やってるみたいなんだけど」
私は愕然と立ちすくんだ。
想定外だった、雨はすっかりと上がっていたのに、中止になってしまったのか・・・・いや待て、今日はだめでも明日まだ校庭の水が引いてなければ運動会はさらに伸びて明後日になると言う事だ。もしそうなってくれれば明日のマラソン大会は出場出来るかもしれない、まだ希望はある。
やはりそんな事はなかった。
日曜日は朝から好天に恵まれ絶好の運動会日和で、また絶好のマラソン日和でもあった。曇り空で低温だった土曜日に比べ、日曜日は天高く青空が広がり気温は気持ちよい程までに回復していた。この小学校の運動会の順延は大成功と言っていい対処だった。携帯に届いた写真をみると、TもHも明るい太陽のもと元気に走っている姿が映し出されていた。飛び切りの笑顔だ。良かった。
きっとウミネコマラソン大会もベストコンディションだったに違いない。
来年、私はハーフマラソンにエントリーしようと考えた。

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