Column

第163話  美しき祭典

  1984年夏、ロサンゼルスオリンピック開会式、一人の男の背中にセットされた噴射機器が作動した。地響きのような爆音をまき散らしながら男が浮遊し、オーバル会場にひしめく大勢の観客が見上げるその空中をゆっくりと飛行し始めた。かつて経験のない近未来的なその光景をテレビ画面で目の当たりにした私はすっかりと驚いてしまっていた。背中に背負ったあんな小さな装置で人間が自由に空を飛べるようになるなんて、なんて素晴らしい時代になったんだ、まるで新鮮な世界が私のなかで羽を広げた。
ロケットマン、彼は悠々と大空を闊歩し、そして陸上競技場の中央に描かれた円形の着地マークをめがけ、なんなく着地に成功したのである。
この開会式を境に私のオリンピックに対する興味が一段と増したことは間違いない。
そして今年2018年冬、ピョンチャンオリンピック開会式。
夜の空、透き通るほどの暗闇に浮かび上がる無数の光の粒がスノーボードを操る人間の姿を形作った。その姿は徐々に変化し、最終的には大空に五輪の輪を描き出したのである。
その光の一粒一粒がコントロールされたドローンである事を知ったのは、それから数分後にアナウンサーが発した言葉からであった。これにもすっかりと驚かされた。この驚きは先のロザンゼルスオリンピックを思い出させるには十分な衝撃であった。ピョンチャン恐るべし、そして科学の進化的利用と考え込まれた演出はオリンピックならではだ。
モーグル原選手、ジャンプ高梨選手の活躍で始まった今大会。仕事で昼間は見られないが夜のダイジェストはついつい夢中で見てしまう。決めている就寝時間では無理が生じる。
ハーフパイプの平野選手、金メダルは行けたかと思ったが、ショーン・ホワイト選手に阻まれた。最終滑走であの完璧なパフォーマンスをされては仕方がない。ただ実力はほぼ互角にまで成長した、次が楽しみでならない。
ジャンプにしてもアルペンにしてもそうだが、冬のオリンピック競技は生死を彷徨いかねないリスクを背負っている。コンクリートほどにカチカチの斜面をとんでもない速さで駆け抜けていくのには幾多の経験と勇気と覚悟が必要だ。私のようなにわかスキーヤーとは次元が違うことは重々承知している。
フィギアでは羽生選手に宇野選手がワンツーを決め、スピードスケートでは小平選手が躍動し大きな花を添えてくれた。500m、金メダルの小平選手と銀メダルのイ・サンファ選手との、レース後寄り添う姿には国を超えた友情を垣間見た。そこにはオリンピック本来の姿がある。そのあとの記者会見での二人の関係性には涙し、そして拍手を送った。その後何度となくその場面が各局のテレビ画面に映し出されるのだが、そのたびにジーンと心打たれる。
大会終盤、パシュートでの高木姉妹、佐藤選手そして菊池選手の4人で力を合わせての金メダル、これにも大きな感動をもらった。故障で成績が伸び悩んでしまい今回は選ばれることのなかった5人目の選手の存在が彼女たちを奮い立たせ、そしてこの勝利につながったと言っても過言ではなさそうだ。
どの競技もワールドカップなど世界各地での連戦を重ね、4年に一度のこのオリンピックと言う大きな舞台に立てているすべての選手たちの姿は本当に誇らしく頼もしい。その懸命な姿は気高く美しく愛しい。
やっぱりオリンピックは面白い、夏も冬も。

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