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第141話  さくら

  4月、しろく厳しい季節を通り抜け、待ちわびていた温暖なみどりの季節がやってきた。
一面、枯れ色の芝地にも新芽があちらこちらとまばらに生え始め、あたりを明るい春色に変える。
桜もそろそろか・・・。
私には遠い昔に一度か二度か、その程度のものでしか花見の記憶がない。
満開の桜は確かに心賑わすほどの感動を与えてくれるのだが、あまりにもはかないその時と朽ち果てるという事実が私に動揺をも与える。
足早に過行くはかなさに虚しさを重ね合わせてしまうものだから、その満開の花々を観ていても心底堪能するには至らないのである。
私は、その薄桃色の花々が散り切った後の新緑の葉を咲かせた桜の方が好きだ。
晴れた日、無数の小さな黄みどりの葉が陽光を反射させてきらきらと輝くさまは、穏やかに心震わせ、この先になにか良い事でも起こりそうな予感と新たな始まりを抱かせてくれる。
そして、その新緑に包まれたさくらの木全体を「美しい」と思う。

日本人にとって4月はあらたな旅に向かう時、特別な月。
それぞれの桜を堪能しながら、新たな気持ちでまた一歩、前に進むことが出来れば幸いである。

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