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第17話  イルカと私

私は案外魚好きである。闇雲に魚好きとは言っても何のこっちゃと御思いの方もおいでだ
ろうが、食物としてはもちろんではあるが、今回は観賞用としての話である。
数年前ではあるが、無国籍料理店HGCの店内には大型の水槽を完備し、数種類の熱帯魚
を飼っていた時期もある。
(この水槽は、はるか沖地震によって、店ごと破壊されてしまった)
もちろん補食や水槽掃除なども、私が全て面倒をみていた程だ。
そんな、まだまだ素直な頃のある冬の日の事である。

私はどうしても巨大魚アロワナが見たくてたまらなくなり、休日浅虫水族館へと車を走ら
せていた。
しかし、たまたま休みが取れたその日は、北国に住んでいる私達でも滅多に経験する事の
出来無い程の猛吹雪で、車で国道4号線を青森方面へと北上中の視界もかなり悪く、前方
3メートル位先を走る車両の赤いテールランプだけしか視認出来ない状況であった。
それをさらに進み平内町付近へと差掛かった辺りでは、走行中の車両全てが時速5キロ前
後などと言う、マニュアル車の私にとってはクラッチペダルを踏む左足が痙攣しそうな程
ののろのろ運転状態の時もあった程である。
こんな過酷な気象状況の中、アロワナを見たいと言う一心でなんとか浅虫水族館へと到着
することが出来たのだ。

だが、いざ車を駐車場へと回してみると、その駐車場は白銀一色の誰一人として踏み荒ら
した跡の無い無垢の雪原状態で、他の車がたったの一台も駐車していないのである。
私は休館日に来てしまったのかと思いがっかりしてしまったのだが、せっかく苦労してこ
こまで辿り着いているのだ、休館なのかどうか一度確かめて見なければと建物へ向かって
みる事にした。
するとラッキーな事に水族館は営業していたのだ。
(うわ~良かった、良かった。)
今日のこの猛吹雪で、車での来館者が誰一人として居なかっただけなのであろう。と言う
事は、もしかすると本日の来館者は私ひとりだけ?
そんな事を思いながら館内に入ってみると、なんと予想どおり、やはり誰に会う事もなく
私ひとりだけであった。
そして、本当に自由に見学させてもらった。(こんな事ってあるんだね~!)

いつもなら一方向へと流れる様に見学するのだが、今日は違う。
逆方向でも、立ち止まっても、ベンチで寝転んで見ても良いのである。
この空間は私だけの物なのだ。

もちろんアロワナの勇姿も思う存分ゆっくりと見学させてもらった。
だが人間はわがままなもので、暫くの間ひとりっきりで自由見学を謳歌していると、なん
だか少し寂しくなったりなどもして来ていた。
するとそんな時である。
突然、「ピン、ポン、パン、ポン♪」と館内放送が鳴り出したのだ。
そして、
只今から、イルカのショウを始めます。お客様は会場の方へぜひどうぞ。』
と言っている。

私だけしかいない館内で、私だけに放送している。
水族館のスタッフの方々も来館者は私ひとりだけである事は充分把握している筈と思われ
る。
それはやはり、私だけの為の「イルカのショウ」であるのだ。
私は少し考え込んでしまった。
この状況からみてもショウの観客は絶対的に私ひとりである。私がもし見物していれば、
私はひとりで拍手し、イルカの調教スタッフから『一度イルカに触ってみませんか?』
などと聞かれ、どれどれと、ひとりでイルカの頭を撫でて『触ってみると意外と固いです
ねー。』などとコメントし、そしてひとり大きな声で声援を送らなければならない。
だが、私が今見物に行かなければ、イルカは今日休暇を取れるかもしれない、などとバカ
げた想像をしているうちに、なんだか気恥ずかしくなって来ていた。
私は水族館の魚達を充分満喫できていたし、やはりイルカやこの状況下でのショウを私の
為だけに仕方なくでもやってやろうと言う水族館スタッフの方々にも悪いが、残念ながら
ショウを観ずに帰る事にしてしまったのであった。

だが、昨今この事を振り返って考えてみる度に、いつも後悔しているのである。
滅多にある事ではない筈の、私だけのイルカショウをしっかりと観て来るべきだったと、
時折吹雪きの時にその思いが脳裏を過るのだった。
今度チャンスがあれば絶対もう一度、記録的な猛吹雪の日にでも訪れてみようと思ってい
る今日この頃なのである。

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※2005年度は皆様には本当にお世話になりました。
2006年度もスタッフ一同、洋服に料理にそして家具にと精一杯頑張ります。
洋服としては春物の展示会は全て終了し、2006年新春商品は「T-bird」では1
月中旬頃には入荷の予定になっており、「ShoobyDooby」ではいち早く既に入
荷し始めております。
料理に関して「HurdyGurdycompany(HGC)」ではやはり毎月の新しい
オリジナリティー溢れるメニュー作りに励み、そして発表して行く予定でシェフも日々精
進しております。
また、「Tb-times」の家具、雑貨に付きましては、新春2月中旬買い付けでアメ
リカを回る予定になっており、今回はファイヤーキングなどテーブルウェアーを中心に集
めて来る予定です。
もちろんその他に素敵な物も探して来ますので御期待下さいね。
今後とも、どうぞ宜しくお願い致します。

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