Column

第167話  そうか、あれって

  テレビ番組では、日テレ(木)夜9時からの「秘密のケンミンショー」は楽しみにしている。
日本全国津々浦々独特の食文化が垣間見れて、そして登場するそれら数々の料理のうまそうな事、機会があったら一度は食してみたいものなどはたくさんあって仕方がない。そのうまいもの達にはやはり歴史がある。その地域で連綿と味が受け継がれ、愛され続けている老舗が多い。発案して形にできた初代の工夫と努力と情熱の賜物だろう。
また、料理に関すること以外でも、その土地土地の人柄から生活習慣等々多彩な展開も面白い。中でも京女の本音と建て前と言う過激ドキュメンタリーが「あれっ?」と思わせた。
京都市内の繁華街、取材を受けていた老舗料理店の女将が言った。
「例えば、食事に見えたお客がきつい香水のにおいをプンプンとさせている時は、とてもいい香りどすなー(京言葉の使い方の間違いはご了承ください。聞き覚えと感性で書いておりますので、悪しからず)、かつて嗅いだことのないほどのいい香りですわー、と言いますねん。この言葉の裏にはとても臭い、臭すぎるというニュアンスが含まれているんですわ。言いたいことはわかってくれはりますよ。」
と、京都人ならそう理解するらしいと女将。
それを聞いていた司会の久本氏が反論。
「それが、わからんのですわー、てっきり褒められてるもんだと思いまよー」
同じ関西圏でも大阪人は褒められたと勘違いすると言うのだが、私だってそうだ。間違いなく私だってありがとうございます、の一言ぐらいは言いそうだ。
ん、そんな時、遠い昔に、そんなニュアンスの言葉を耳に下ことがあったな、とその懐かしい場面が蘇る。あれは今から20年も前になるか・・・・HGCと言う無国籍料理店を始めたあたりだった。料理の単価は出来るだけ抑えて設定していたのだから、必然的に高額な素材を使用することは出来ないので、インスタント的な素材なども交えながらそれなりの料理を創作しては提供していた。その数々の創作料理の中に「・・風フカヒレスープ」と言うとき卵をふわり混ぜ込んだとろとろスープがあった。もちろんそのスープの中に高額なフカヒレの姿煮を使用するには至らず、「フカヒレの素」的なインスタントを使用していたのだが、風味重視の粉末もので、フカヒレの些細な、そう、糸ミミズほどの欠片がチラホラ垣間見れる程度の代物であった。どちらかと言えば、「フカヒレ風味の卵スープ」と言った方が適切なネーミングのスープであった。味はうまいのだが・・・単価的に仕方がない。
ある夜、50歳を少し超えたくらいであろう、ワンピース姿の上品なご婦人が2人、店を訪ねてくれていた。数品の料理とグラスワインを注文されて、1時間ほど楽しそうに料理を味わいそしてワインでほろ酔いのひと時を過ごして下さっていた。
さて、そろそろお帰りの時間、お会計となり私はその食事料金を受け取り丁寧にお礼を口にした。女性もにこりと微笑みありがとうと一言。
くるりと玄関側に踵を返しての帰り際、料金の支払いを任せていた方の女性が一言口にした。
「あの大きなフカヒレの入ったスープとてもおいしかったわよ、ごちそうさま」
「それはそれはありがとうございました。ぜひまたどうぞ」
私はその時、てっきり褒められたとばかり思っていたし、嬉しさのあまり満面の笑みを浮かべてそう口走っていた。やり遂げ感だけが胸中駆け回り、やる気が充満してきていたものだ。
京女の云々を耳にして思う。
「大きなフカヒレ」云々に、はたと気が付く・・・・今さら。
そうだ、考えてみれば、先述したように目に付くほどの大きなフカヒレなどそのスープに入っているわけもなく、言われた時点でおかしいと思っても不思議はなかったはずだ。褒めら感が半端なく、ついつい舞い上がっていただけだった。
テレビ画面で微笑むその女将を見ていて、そんな過去の出来事が突然思い出され、その言葉に納得してはなんだか恥ずかしくなった。あまりにも世間知らずだった。
そうかー、そういう事だったのか。

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