私の家にはダイと言う名前のゴールデンリトリバーがいる。
現在既に10才を超えて、徐々にではあるが落ち着いた様子でのんびりと時を過ごしてい
る。勿論一緒に生活を始めたのは10年前からである。
GOODな出会いとは、時として突然やって来るものだ。
たまたま友人のT.T(以下T)が店に遊びに来た時である。
彼の知り合いのペットショップでゴールデンリトリバーの子犬が生まれたらしく、たった
今その子犬達を見て来た所だったと言うのだ。
それを聞いて、私はムクムクの物体がじゃれ合い遊び回る様を想像してしまい、どうして
もその子犬達を見てみたいと言う衝動に駆られ、カミさんに見てくるだけだからと告げ、
Tと一緒にそのペットショップへと出掛けたのだった。
だが、見たらいけなかった。
見た瞬間に、思わず大勢の子供達の中の一匹を指差し、
「この子を下さい!」
と、自分でも無意識の内に言っていたのだ。
するとペットショップのスタッフは、直ぐに私の指差した子犬の前足に赤いマジックで標
を付け、さらに赤いリボンを首に結び、的確に識別出来る様に手際よく行動した事を今で
も鮮明に覚えている。
そのペットショップからの帰り道、私のこの決断は良かったものかと自問自答してみてい
た。
当時、我が家は県営団地の3階住いである。
犬を買ったのは良いが、いったい何処で飼うのだ?そんな場所など無いではないか。
などと考えを巡らせてはみたものの、結果はやはり、
『どうしても欲しい!』と言う頑な欲求の方が勝ってしまっていたのだ。
そこで、県営団地の許可うんぬんよりも、まず先にカミさんを説得しようと考え、一旦家
に帰って直ぐにカミさんを伴い、その子犬を見てもらう為に再度そのペットショップへと
出掛けたのだった。
案の定、カミさんも団地住いと言う点では難色を示してはいたが、やはり一目見て欲しく
なってしまっていたのだ。これでひとつの障壁は突破出来た。
ダイと言う名前を付けた。勇者大である。
本名は(アルル・オブ・ビュウティースノー)。
名前のスペルがAからはじまる、初産の子である。
初めてダイが我が家へとやって来た。
この日は我が家の子供達も大喜びである。玄関のドアを開けダイを室内へと放し入れた。
するとダイは一目散に室内を通り過ぎ、寝室のベットの下へと潜り込んでしまい、そこか
ら出て来なくなってしまったのだ。
やはり突然の生活環境の変化に直ぐには適応出来ず、少し怯えている様子であった。
だが、しばらくベットの下で辺りを気にしてはいたが、私達があまり刺激を与えない様、
気にしない風を装いながら放っておくと、やがてダイの方からこちらにちょっかいを出し
始めて来たのだ。
それからは急にドタバタと皆と楽しそうに遊び始めたのだった。
そして、家の中が明るくなった。
しかし、ここからがふたつ目の障壁であり、問題であった。
団地ではやはりペット飼育の許可は下りない為、ダイの足音が聞こえない様に全フロアー
に絨毯を敷き詰め、散歩の時はダイを毛布に包み、外まで抱えて行ってはしばらく歩き、
住んでいる団地とは全く別な所で遊ばせた。
しつけが出来るまでは、おしっこも所構わずしていた。
それなりに内密での苦労はあるが、それでもダイと一緒の生活はやはり楽しいもの
だった。
しかし時が立つに連れてダイも成長し、1年で体重が30キロにも達してしまっていた。
室内を歩く時なども、その足音が隣近所に響き渡る様にまでなってしまい、況してやとて
もダイを抱えての階段の昇り降りなどは到底無理になっていた。
これではもう団地の皆さんに隠し通す事は出来ない。いや既に私達の部屋の周りに住む方
々の承知する所であった様にも思うのだが。
そこで、とても痛い出費ではあるがダイの為に一戸建ての家を借りる事になったのだ。
運良く団地から直ぐの所にそれは見つかったのだが、今住んでいる団地の3倍の家賃なの
だ。
(とほほ、稼がなくてはならない。)しかし、早速決断し住んでみるとやはり快適である。
周りを気にせずダイを室内で走らせる事が出来るし、散歩もそのまま玄関から出掛けられ
るのだ。これ程楽な事は無い。
これを期に、家族全員自由にダイとドッタンバッタンと遊べる様になり、必然的に家の廊
下や居間のフローリングはキズだらけ、ソファーは穴だらけになってしまったのだが気に
はしない。
覆水盆に返らず、形有る物は全て壊れるのだ。
(ただ、後の弁済が大変だ。)
こんな調子で現在に至っている。
その頃には殆ど考えた事もなかったのだが、あれから10年が経過し私達も年を重ねるに
連れ、同じくダイも年を重ねていた。
最近めっきり年老いて見える。
目にも白内障の症状が表れ、少しばかり白く曇って来ている。
今の所まだ大きな病気などは無いのだが、出来る事ならいつまででもこのまま元気で長生
きさせてやりたいなどと、到底自分には出来もしない事を願う今日この頃なのであった。
どうせならこの機会に、そこを何とか出来る御仁に頼んでおこう。
神様!どうかひとつよろしく!
神の声「それはそうと、お前も少し酒を控えた方が良いぞ!」