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愛情のひと手間

「ええっ、3杯注文して3杯食べて来ました」

常連で食通のお客様がそんな突飛で不可解な事を言い放った。

「えっ、3杯って、ラーメン3杯いっきに注文してそれをいっきに食って来たって事」

「はい、そうです」

そうですって・・・私はすっかりと驚いてしまった。

「塩ラーメン・醤油ラーメンそしてチャーシューメンです。そこって塩ラーメンがかなり有名なんですけど、せっかく来たのでひととおり食べてみようと思って・・・・」

ひととおりって・・・すご過ぎる。

場所を聞くと七戸町だと言う。
しかもその詳しい住所と名前を聞くと何だか私の知り合いのような・・・・
と言うのもそのあたりにはかつて私の祖母の家があり幼い私は数年間ではあったがその祖母の家で育った。
確かに「高山さん」と言っていた。
もしかして「あっちゃん」ち?
そうだ、そこに住んでいた小学校の中学年あたりまで、毎日のように「あっちゃん」と遊んでいたものだ。
その妹が「なおちゃん」で一番下の弟が「かっちゃん?」。
当時、テレビ番組では「ケンちゃんチャコちゃん」が流行っていて、「かっちゃん?」は「ケンちゃん」のイメージがあったことを今でも覚えている。
ただ、今「かっちゃん?」と言っているのだが、名前はそれであっているのだろうか?
記憶にやや不安が過る。そうだ、(仮)としておこう。

次の休みにでも早速行ってみようかな。


あっここだここだ。
やっぱりそうだ。あっちゃんちだ、が、当時は洋服屋だったと思ったが・・・・。
それに、みんな「ラーメンの高山」と呼ぶのだが「ラーメン徳」ではないか・・・・。
なんだか情報が噛み合わない感じだが、せっかくだから入ってみよう。


そうであった。
やっぱりそうであった。あっちゃんちであった。お母さんの顔にぴんときた。
幼い頃にたくさん遊んでもらったお母さんなのでありました。
いや~懐かしくて懐かしくて、その空気感がなんだか心地よいものです。
店は「(仮)かっちゃん」の嫁さんとお母さんとで切り盛りしている様子。
そこにはお母さんの孫にあたる男の子もおりました。(名前を聞くのを忘れてしまった)

あったかい家族の雰囲気がほんわかと漂って来ませんか。


これが噂の「塩ラーメン」です。

スープを、ずずずず~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!

う~~~~ん・うまい!

さすが青森県ラーメンランキングで上位に入っているだけの事はある。
丹念にふつふつと時間を掛けて仕込んだと思われるスープは奥行きのある各素材のうまさをグッと引き出している。
手間を惜しまずこしらえた「温かさ」が伝わってくる。
この時、偶然にも「(仮)かっちゃん」が店内に姿を表した。
「お~小さい頃の面影あるね~~~~~~!」
「うわぁ~~~~懐かしいね~~~~!」

こんな会話が店中にこだまし、和やかな時間が立ち上る湯気と共にゆっくりと流れた。

久し振りに足を伸ばしてみて良かった、と、ひとり悦に入る。
しかしながら私はいつも何かを忘れる癖がある。
何かに熱中すると他の何かが全て何処かに飛んで行ってしまう。最近増々ひどくなる傾向にある。
「(仮)かっちゃん」の名前を確認してくるのを忘れていた。
だけどそんなに焦る事も無いだろう、忘れた事を気付いただけでも良しとしよう。
まだまだ時間はいくらでもある。
そのうち・・・・今度は自家製チャーシューのたっぷりと載った「チャーシューメン」を食べながらでも「(仮)かっちゃん」の事を確かめてみよう!

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