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  第9話  『Y』という鮨屋  
   
私の同年代の友人に、八戸では老舗の鮨屋である「Y」を営むTと言う面白い男がいる。
創業者であるTの父は、チャキチャキの江戸っ子であり、Tの母がまだ若い娘時代に訪れ た東京にて出会い、そして恋に落ちた。
その後この八戸で結婚、夫婦で「Y」を開店し、一代でビルを所有するまでに事業を拡大 させた偉大な男であった。
その父の背中を見て育ったTは、一時迷った事もあったが、結果、父と同じ道を目指し駆 け出したのであった。鮨職人の修行は半端ではない。だがTは頑張った。

青森での修行を皮切りに東京銀座にて数年を勤め上げ、次はなぜかニューヨークである。
そして、そのニューヨークで5年間の修行にも根を上げずに、一人前の鮨職人として凱旋 帰国を成し遂げたのだった。帰国後は、直ぐに父の事業に参加しその腕を振っていた。
だが、この頃まだまだ若輩であったTは、少々やんちゃ心が過ぎた様で、父とは全く違う 道をも模索し始め、行動に移しては数々の大きな挫折をくり返してしまっていたのだった

スナックの経営に手を出した時もそうであった。
このお店は、市内有数の繁盛店にまで成長し、日々かなりの売り上げを確保してはいたの だが、いかんせんTはその利益を湯水のごとく、享楽にどっぷりと注ぎ込んでしまい、や がては徐々に衰退の一途を辿ったのであった。
そのスナック時代、こんな事があった。

ある日の閉店後、Tはお店の女性達を集めミィーティングを始めたのだ。
接客に対しては厳しい男で、スタッフの女性達に向かって彼女達の配慮の足りない所を指 摘し、そしてその気配りと言う本質的な部分を、次回からは改善する様にと語っているう ち、次第に熱くなって来たTは本気で怒鳴り始めていた。
だが、当の女性達の方は全く本気では聞いていないのである。

なぜなら、今熱く語っているTは素っ裸なのであった。

ついさっきまでお客様と一緒に散々お酒を飲んだ挙句、カラオケで盛り上がり、その時点 で衣服はすっかり脱ぎ捨ててしまっていたのだ。

素っ裸で腰に手をあて真顔で説教、当然ジュニアもフルスロットルである。

全くもって憎めない男であり、また懲りない男でもある。
現在では、17才も年下の才色兼備な奥様と一緒にお店を切り盛りしているのであるが、 どうも近頃またおねえちゃんのいるお店で何やら隠密行動をしている様なのだ。
そんな隠密行動のあった翌日に「Y」を訪ねると、二日酔いで元気のないTと、元気にT に説教しながら、絡む奥様を拝見出来るのである。
そしてその遊びの度が過ぎた時は、奥様の号令下、頭をきれいに丸めているTを時々では あるが目撃出来るのである。(最近はいつもきれいな気がする。)

そんなTには弟のYがいる。
Yもまた兄の後を追いニューヨークで10年間寿司を握っていた。
数年前、残念ではあるが先代がお亡くなりになると同時に完全帰国し、現在では兄弟で一 緒に寿司を握っているのである。
このYもTに負けず劣らず面白い男で、ある時私はカウンターに座り、会話を楽しみなが らYの包丁捌きを眺めていた。
するとYはマグロを捌きながら、指までもきれいに切っていた。
「さすがニューヨーク帰りである。」
つい話しに夢中になりやっちゃったのだ。
ところが、翌日に行なわれたゴルフのトーナメントでは、その指を切ったおかげで余計な 力も抜け、かなりの好成績を残していたのだ。
まったく転んでもただでは起きない男であり、兄同様憎めない男である。

先日、私はロサンゼルスを拠点にボストン、ニューヨークなどを周回する出張が入り、こ の機会に彼等兄弟の足跡のひとつであるあの修行の場に一度行ってみたいと思い立った。
そしてその「N」SUSHIと言うニューヨークのお店に出向いてみたのだった。
それはマンハッタンの中心で、空も臨めない程の巨大ビル群の中の一角に存在していた。
お店の中に入ると、中央部分にまるで舞台の様な大きなカウンターが設置してあるのが目 に入った。
そこでは御主人らしき白髪頭の初老の男性が忙しく、そして器用に鮨を握っていた。
彼等兄弟もあのカウンターで、多種多様な人々とコミュニケーションを取りながら鮨を握 り、時には孤独と戦いながらも生活をしていたのだ。
この全てを飲み込んでしまいそうな大都会で一生懸命腕を磨き、そして生きて来たのだろ う。
そう思うと、あの愉快な兄弟の内面に存在する何かを覗いて見たような気がしてとても感 慨深いものがあり、足を伸ばしてみて良かったと思った。

そしてここ「Y」には先代の親方の元で厳しい修行を積んで来た、堅固な職人堅気のミス ターTAさんがいる。
彼は黙々とあらゆる仕事をこなし、ここ「Y」にはなくてはならない存在であり、言わば 「Y」の良心である。
時々、本当に稀にではあるが、はにかんで発せられるジョークは最高である。
そして、既に女将の風格を携え仕事をテキパキとこなす頼もしい姿の奥様Rさんがいる。
このふたりが付いて居れば、老舗「Y」も安泰であろう。
貧乏性の私にとってはとても足繁く通う訳にはいかないが、やはりまた足が向いてしまう 昔気質と現代柔和の混在する不思議な鮨屋である。

 
   
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