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第80話  愛しき瞬間の記憶

 
   

  「もうい〜かい!」未だ木陰には雪の残骸が居座る昼下がりの広場に、甲高い声が響き渡った。
昔々、幼稚園児だった私達は思慮深い習事が終了すると、たびたびかくれんぼ遊びをしたものだ。その日も鬼が誰だったのか定かではないが、確かに私は何か大きな物陰に気配を無と化し隠れていた。ちょっとすると何だか腹の奥が痛くなった。そう、ウンコがしたくなったのだ。だが今は大事なかくれんぼの真っ最中である。園児にとってかくれんぼで最初に鬼に見つかる事程最上級の屈辱はない。外に出るに出られない私はウンコの方を出してしまったのである。それでも暫くは我慢に我慢を重ねて隠れてはいたのだが、どう足掻いてみても気持ちのいいものではない。
堪え切れなくなった私は誰にも見つからずにそっと処理すべく忍者のごとくに体を獣へと変化させ、すばやくその場を脱出したのである。
まんまと抜け出すことに成功したのはいいが、今度はなんとも歩きづらい。ブリーフの中に溜まっているお宝が、右足を前に運べば右側に、左足を前に運べば左側に、歩くたびに左右に揺り動くのである。それがことさら気持ち悪い。そこで幼い私は考えた。ひざから下だけを使って歩こうと。まるでアヒルのような摺り足は、はたから見たらかなり滑稽な動きに映るだろうが、この窮地を考えたら仕方が無い。祖母邸まであともう少しという所、突然私の肩にパチリと衝撃が走った。「よう、今帰るとこ?」うわぁ〜誰だこんな時に!全身が強張った瞬間、未だ腸の中に残っていたらしい小さなお宝がプリッと出た。思わず私は立ちすくんでしまった。それは幼馴染みのよっちゃんだった。ここでばれては本も子も無い。気を取り直し気丈に振る舞った。「うん、家に帰るとこ、よっちゃんは?」「うん、僕も帰るとこだよ」よっちゃんは無邪気に言葉を返したが、それは非常にまずい。冷や汗が背中を伝った。家が近所なだけに一緒に歩いて行くしかない。私は覚悟を決めた。懸命にひざ下をフル回転させ、歩く速度を一定に保つよう努力した。その甲斐あって何事も無くよっちゃんと別れる事に成功した。しかし、ホッとしたのも束の間、祖母にはなんなく見つかった。振りかざされた祖母のゲンコツは私のデリケートな頭蓋骨を直撃し、だらしなさを鬼のように叱られた。
だが、最後の最後にはクスッと笑い出した。つられて私も笑った。何気ないそんな些細な場面にこそ「愛」が満ちあふれているものだ。
あの遠い日から幾年、今のところ大きなミスは無い。

(デーリー東北新聞連載・第1話)

 
   
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