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HOME > COLUMN > 第71話...茶色のわんこ |
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第71話 茶色のわんこ |
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あと100メートルも走ればそこにはゴールという楽園がまっている。 昨夜はちょっとワインを飲み過ぎてしまった。そのせいもあり、今朝のジョギングは軽い ものへと変更した。体表からはアルコール分をたっぷりと含んだ琥珀色の汗が吹き出し、 ナイロンジャケットの内側は湿度300パーセントにも達するかといった勢いで蒸してい る。目に入った汗を肩に掛けたタオルで拭った。 暖かくなり始めた空は春の陽光が眩しい。 「ふぅ〜着いたら速攻シャワーでも浴びよう!」 気持ちの弛んだ、そんな時だった。 早朝の人気のない路上、私の前方50メートル程のセンターライン上にこい茶色の大きな 犬がなにやらせわしなくあたりを嗅ぎまくっている。ここ2年程ジョギングをしている私 なのだが、かつて見た事も無い犬である。かなりでかい。首輪などはここからでは視認出 来ない。どこかの飼い犬が逃亡を企てまんまと逃げ伸びたのか、それともたまたま繋いで あった鎖が切れて晴れて自由の身になったのか、はたまた根っからのアウトローで何か獲 物はないかとあたりを物色中なのか・・・と、胸中巡った。 私は犬が大好きだ。 だが、ひと気のない1本道のこの閉ざされた空間の中で、見知らぬうす汚い大きな犬と至 近距離ですれ違う行為にはおおいに気が引けていた。私はいったん走るのを止めてその場 に立ち止まった。奴がどんな行動にでるのか、このやや離れた位置で観察しようと考えた のだ。奴はあたりを嗅ぎ回る事に夢中でまだ私には気付いてはいない。だが確実にこちら 側へと向かって歩いて来る。 左右に振らつきながらも一歩一歩私へと近付いてくる。 何かを感ずいたのだろう、奴がふっと頭を上げた。 ちらり、私と目が合った。 奴は笑った、不敵に笑った。 少なくとも私にはそう見えた。 次の瞬間、その大きな茶色のわんこは急に私を目掛けて走って来たのである。 「やばいでしょ!」 私の胸の一番奥にある情勢危険探知機が瞬時に警報を鳴らした。とても手ぶらで戦える相 手では無い事くらいは直感で察する。私はいままで走ってきた後方へと向き直り、一目散 に駆け出したのである。ジョギングも後半、既に疲労困憊気味の体ではあったがなんのそ の、こんな非常事態では立派に走れるものなのだと悟った。50メートル程走ったところ で一度振り返って見た。奴はやはりまだ私を目掛けて走ってくる。しかし走りはそう速い 方とは言えないようだ。ドテッドテッと重たそうに体を上下に揺らしている。 なぜだかそのシッポを大きく振っているのが見えた。奴は私を、誰か昔の知り合いと勘違 いしているのか、それとも私を追い掛けている行為そのものに喜びを感じては楽しんでい ると言う事か。 どっちにしても、私には何の関係も無い話だ。 私は走る足に力を込めた。 100メートル程走ったところで再び私は後方に目を向けてみた。 すると、奴は疲れたのか途中立ち止まってこちらを恨めしそうに見つめていた。 体はとてつもなく大きく精悍に見えるのだが、どうやら年をとっているのかもしれない。 目が合うとゼーゼーと荒い息を漏らし、再びこちら側へと走り出した。そしてまた大きく シッポを振っている。人懐っこい奴なのか?だが素性の解らない状態で近付くのはとても 危険だ。私の走る速度がぐっと上がると奴はあきらめた様子で、再び立ち止まっては大き く肩で息をついた。 私はほっとした。 「こっちの道を通れば家へ帰れるはずだ」 いつものコースを走れないのは残念ではあるが仕方が無い、私は大きく回り道をして家路 についたのである。 それからはちょくちょく奴を見かけるようになった。見かけるたびに大きくシッポを振っ ては私を目掛けて走ってくる。もちろん私は毎回奴を振り切った。そのうちウォンウォン と悲哀に満ちた声をあげるようになった。 ある夜、仕事終わりに車で家に向かっている時にも見かけた。やはり何か食い物はないか と鼻を地面に擦り付けるように嗅ぎまわっている。暗闇のせいか、なんだかやつれている ようにみえた。これだけ時間が経ってもまだこのあたりをうろうろしているのは、やはり このあたりの犬ではないのだろう。 この時、奴の首に汚れた首輪らしきものがちらりと見えた。 「えっ、あいつ野良じゃなかったんだ、そうか・・・」 出会った時にシッポを振っていたのはそう言うことだったのか。人をみて喜んで駆け寄っ て来ていたのかもしれないと思った。どうやら悪いやつではなさそうだ。その生まれ持っ た風貌が邪魔をしているのだ。どうひいき目にみたって初対面で奴の頭を撫でてやろうな んて思える可愛さなど微塵もない。どちらかと言えば毛嫌いされ、人に近付こうものなら 棒で引っ叩かれそうなくらい危険な存在にしか見えない。でかい図体に濃いコーヒー色と なればそれだけで知らない人は引いてしまうだろう。そうなんがえると不憫としか言い様 が無い。 (明日の朝、もし会ったらちょっと立ち止まってみようか・・・) そう思ったのだったが、その夜をさかいにぱったりと奴と会う事は無くなった。
約1ヶ月の時が過ぎた。
「あっおはようございます」
数カ月の間、朝のジョギングで彼等に会う事は無くなった。 「それがな・・・」の次の言葉が浮んではリフレインしてしまう。
もしかすれば、今だけちょっと体調が悪くて家にいるのかもしれないし、何処か裕福な親
あれからたびたび彼等を遠目に眺める事がある、が、やはり奴はいない。
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