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HOME > COLUMN > 第68話...時は流れて |
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第68話 時は流れて |
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玄関先からA2Cがこちら側を覗いている。 数秒後、神妙な面持ちで店の中へと入ってきた。どうもいつもと様子が違う。いつもなら 奴の店で売れたパンツを片手に抱えては「ミシン借りま〜す」なんて、さもここでパンツ を縫うことが当り前の様に極自然に入って来るのだが。 「おう、どうしたんだよ今日は・・裾上げでもなさそうだし・・さてはまたさぼってんな お前!」 「いやいや、今日は休みなんですよ。ここんとこ1ヶ月に一回は店休にして店自体を休み にしてるんですよ」 A2Cは私の的外れな問いかけに一瞬ひるんだものの、気持ちを取り直しては快活に答え た。 「そうか、そうだよな、いつもは交代で休みをもらう形だからお前達夫婦のどちらかが店 に立っている訳だから、一緒に休むって事はないんだもんな。まあ、月一でそんな時間も 必要なのかもしれないなこれからは。ところでお前独立してからもう3年目だっけ?」 「またまた、なに言ってるんですか、もう今年で5年目ですよ。しっかりしてくださいよ 。まだまだぼけるにはちょっと早いですよ。」 「えっもうそんなになるんだ、早いもんだな〜。よくまあこの希代の不景気にも負けずに よく頑張ってきたもんだ。感心感心。ただ俺のボケは今に始まったんじゃなくて数年前か ら進行気味なのはお前もよくしってんだろ」 「エへッ!」
思えば奴が入社したのは今から10年も前になる。
初めてだと思われる接客を初日から難無くこなしてした事には正直驚いた。見よう見まね
「ところで、お前せっかくの休みなのになにしに来たんだ」
私達はその部屋の小さな丸テーブルを囲んで席についた。 「エヘヘッ、実は、赤ちゃんが出来たんですよ〜〜〜〜!」 「えええええええええええええええええええええええええええええええっ!」
私の脳がジジッと音をたててショートし、準備万端であったはずの心が行き先を見失しな
「まじでっ、本当か、まじでそれはすごい。ありゃありゃ驚いた。こりゃあ大変な事だ、
「そうか〜でも本当によかった、でも、まだ男か女かわかんないけど、どっちにしてもで
奴はまた何か大きな余韻を含んだ物言いでふっと言葉を止めた。 「まさか、双子、ってことはないよな」 それを聞いて、奴はにこりと微笑んだ。 「エへ、実はそう〜なんですよ、双子だったんですよ、しかも一卵生の」
押さえていた私の感情がいっきに宙を舞った。最初の驚きを数百倍にした熱気が胸中渦巻
「双子ってなかなか大変らしくて通常の妊娠よりもこまめに検診に行かなきゃならないん
なにやら勉強したとみえて先を見据えた話振りであった。また、その態度からは父親とし
「そうか、まだ完全に安定したとは言えないとこなんだ。じゃあお前がしっかりしてやら しっかりしていない私の口からもっともらしい発言が飛び出した。
「そうっすね、がんばりますよ!・・・ところで話は変わるんですが・・・・去年だった 先程とはずいぶん口調がゆるい。 「おいおい、欲しいな〜って語尾を伸ばしてるけど、それって俺に買えってか」
「いやいやそんな事は一言も言ってませんよ。ただ欲しいな〜って思っただけですよ。そ A2Cは話が済むと背中に笑みを携えながらこの部屋を出て行った。
「心の底から嬉しいのだろう」が十分過ぎる程伝わって来る。付き合いが長い分その何気 出会いから10年、父親となる奴に泣き虫だった頃の面影はすでに無い。
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