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HOME > COLUMN > 第6話...グランドピアノをバックに |
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第6話 グランドピアノをバックに | |||
店のお客様にMと言う女性がいる。聞けばある高級クラブで仕事をしていると言う。 酒を飲みに出掛けるとすればもっぱら近所の庶民派的な小料理屋が主な私にとっては、と ても縁のない場所である。 そんなある日M嬢は『今度、時間があったら飲みに来てよ。安くしといてあげるから。』 と言うのである。 どんな所なのか少し覗いてみたくなった私なのだが、とてもひとりでは未知の世界に足を 運べる訳もなく、友人のTとUそして私の店のスタッフであるK(一号)に一声掛けてみる ことにした。 するとなんと全員二つ返事でGO,GO,GO! これで意を決した私はM嬢に一本電話を入れた後、4人でいざ出陣と相成った。 全く初めて行くお店なのだが、おおよその見当はついていたので案外楽に発見する事が出 来た。 しかし着いたは良いがそのドアの前には、高級スーツに身を包み、しっかりと前を見据え たドアマンが仁王立ちしているではないか。 『おいおい、マジかよ。』と私達は顔を見合わせてしまった。 だがここで怯んではいけない、せっかくここまで来たのだから一度は高級クラブと言う所 を体験してみたいではないか。 私は思いきって『M嬢をお願いしたい』と言う意向をドアマンへと伝えた。 すると案外すんなりと快く向かい入れてくれたのである。
重厚なドアを開け店内へと通されると、案の定私のかつて経験した事のない異空間がそこ
には広がっていた。 「何か歌いませんか?」
と声を掛けて来たのだ。 「知床旅情お願いします。」
と言いながら、ピアノの方へと向かって歩いて行ったのだ。
その時、向側のお客様が2組程帰った。
この空間でピアノの繊細な音色とパワー全開のUを見ているうちに私は段々と酔いがさめ
てくるのを感じた。そしてフッと気付くとまだたくさんいた筈の他のお客様が誰一人とし
ていない。 その後、M嬢は何度か私の店へ遊びに来てはいたが、「また飲みに来て」などとは二度と 口にすることは無かった。 高級クラブでの経験はこれが最初で最後であった事は言うまでもない。
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