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  第5話  ほんのちいさな出来事  
   
私の友人にAと言う自衛隊員がいる。
私が馬場町にオープンさせた最初の店のまったく初期の頃のお客様で、当時はまだ21、 22才のなかなか気の良い青年であった。私が仕事で忙しくしている時などは、よく無償 で手伝いをかって出てくれた事もたびたびであった。
そのが近頃趣味として「渓流釣り」を初めたらしく、会う度事執拗に私を釣りに誘って来 るのだ。
断り続けるのもどうかと、とうとう根負けした私は渋々ではあったが、一緒に釣りに行く 事を承諾してしまった。
早々釣り道具を買い揃え、家族サービスとまではいかないが、当時8才の息子を一緒に連 れて行く事にしたのだ。(3才上のお姉ちゃんもいるのだが、釣りの話にはまったく興味 がない様子であり、はなっから無視されてしまった。)

その日早朝五時には起床し、眠い眼を擦りながらも、まだ脳が活性化しきれずに少々ぐず り気味の息子を、なかば強引に、すでに到着していたAの車の中へと押し込んだ。
目的の渓流到着までの所要時間は40分程。やはりその道すがら、私と息子は深く寝入っ てしまっていた。
しばらくして、Aの「着いたよ。」と言う声で目覚めた私は車外を見て、なんと眼を見張 ってしまった。
釣り雑誌などによく掲載されている様な、とてもすばらしい景観なのである。
出発時には少ばかり渋っていた息子も、この透き通った絶景を前にこころなしか嬉しそう に私には見えた。事実息子はいざ釣りが始まった頃には、川に入ったり岩を飛び越えたり など大変楽しそうに遊び回っていた。
朝の清々しいマイナスイオンたっぷりの空気と遊び回る息子を見ていて、
『やはり今回来てみて良かった』としみじみ思った。

しかし、時間の経過のわりには目的の魚はいっこうに釣れる気配はない。
私は息子をだっこやおんぶなどしながら、大きな岩場を次々と越えて三人で下流へと進ん で行った。すると途中、竿を降ろしてみたくなるような私なりのベストポイントが眼に入 り込んで来たのだ。
そこで私は、今二人で一緒に立っている、川の流れの中にどっしりと腰をおろした大きな 岩場に息子だけを残し、その目差すポイントへとひとり向かったのだった。

しばらくすると、その場から身動き出来ないでいた息子は、今いる岩場から川をまたいだ 岸側へ渡りたいと言い出したのである。
岸までの間隔は2メートル足らずだが、その間には急流がありジャンプしても少しばかり 危険な距離である。すると、丁度岸側にいたAはすかさず両手を広げ、息子に向かって、
「飛んで来い!」と叫んだ。
そのAに向かって何度もジャンプしようと試みてはいた息子だが、やはりどうしても恐く て飛ぶ事が出来ない。見かねた私は釣るのを一時止めその場へと向かっていた。
そして今度は、私が息子に向かって

「飛んでみろっ!」と叫んだ。

すると息子は、その掛声ひとつで眼をつぶりながらも必死の覚悟で精一杯のジャンプを決 め、私の胸に飛び込んで来て、しっかりとしがみついたのだ。

この瞬間、私はなんだか言い様のないうれしさが込み上げてきて、ギュッと力強く息子を 抱き締めていた。
普段の生活上ではなかなか肌で感じる事の出来ない『信頼』と言う既に陳腐で曖昧な事の 様に思えていた二文字。
だがこの時、私の内観では『信頼』が眩いばかりに輝いて見えていたのだった。

『私を心から信頼してくれているのは幼いお前だけかな?』

釣りもうはどうでもよかった。

 
   
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