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第5話 ほんのちいさな出来事 | |||
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私の友人にAと言う自衛隊員がいる。 私が馬場町にオープンさせた最初の店のまったく初期の頃のお客様で、当時はまだ21、 22才のなかなか気の良い青年であった。私が仕事で忙しくしている時などは、よく無償 で手伝いをかって出てくれた事もたびたびであった。 そのが近頃趣味として「渓流釣り」を初めたらしく、会う度事執拗に私を釣りに誘って来 るのだ。 断り続けるのもどうかと、とうとう根負けした私は渋々ではあったが、一緒に釣りに行く 事を承諾してしまった。 早々釣り道具を買い揃え、家族サービスとまではいかないが、当時8才の息子を一緒に連 れて行く事にしたのだ。(3才上のお姉ちゃんもいるのだが、釣りの話にはまったく興味 がない様子であり、はなっから無視されてしまった。)
その日早朝五時には起床し、眠い眼を擦りながらも、まだ脳が活性化しきれずに少々ぐず
り気味の息子を、なかば強引に、すでに到着していたAの車の中へと押し込んだ。
しかし、時間の経過のわりには目的の魚はいっこうに釣れる気配はない。
しばらくすると、その場から身動き出来ないでいた息子は、今いる岩場から川をまたいだ
岸側へ渡りたいと言い出したのである。 「飛んでみろっ!」と叫んだ。 すると息子は、その掛声ひとつで眼をつぶりながらも必死の覚悟で精一杯のジャンプを決 め、私の胸に飛び込んで来て、しっかりとしがみついたのだ。
この瞬間、私はなんだか言い様のないうれしさが込み上げてきて、ギュッと力強く息子を
抱き締めていた。 『私を心から信頼してくれているのは幼いお前だけかな?』 釣りもうはどうでもよかった。
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