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HOME > COLUMN > 第49話...アワビはお好き? |
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第49話 アワビはお好き? |
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時計の針は午後10時20分をまわっていた。 ラストオーダーはすでに終了している。 常にお客でごった返しているY寿司も、さすがにこの時間帯には団体客などもひけてしま ったとみえ、店の中央部分にあるカウンターに中年の男ふたりが三席ほど間を開けて座っ ているだけであった。ひとりは年の頃50才前後、一週間のうち複数回は顔を出してくれ る常連客。もうひとりはここで何も口にはしていないが、お持ち帰りの極上寿司の折詰を 二人前注文し、それを待っている一見のお客である。常連客の前には一辺が30cmはあ る大きな黒い陶磁器の角皿がひとつ置かれおり、その上には色とりどりの新鮮な刺身が整 然と並べられ、まるで色を差し入れたパレットのような彩りに染まっていた。 時折、それらのなかのひとつをちょいとつまんでは、辛口の冷酒をちびりちびりとやって いる。 静まり返ったカウンターのなかでは、ひとりYだけが居残り、お持ち帰りの品をにぎって いた。 Yはいつもの調子でその常連客と二言三言冗談を飛ばしながらも、軽快にひとつひとつ丁 寧ににぎりをこなしている。たまに気を使い、その待客に対しても話かけてはみるのだが 、「うん!」とか「すん」とか、いやいや「すん」は無いにしろ、直ぐに言葉が途切れて しまい一向に話が前に進まない。無口な人なのだろうと察し、そっとしておくことにした 。もうすぐ注文の折詰めも上がるし、それが上がればそれまでだから・・・。 極上だけあって、脂ののった大トロからウニの軍艦、はたまた大振りのヒラメの縁側まで 多彩なにぎりが四角く囲った小さな空間のなかで華やぐ。 最後にアワビをさばこうとYはいつもの位置に目をやった。 ((あれっ・・・アワビちゃんが・・・いない?))
不思議な事に、そこにアワビの姿はなかった。 ((どうしたのだろう・・・・・?))
すんなりとは受け入れがたい状況をまえに、いぶかしさが心のすべてを支配してやや頭の
中が混乱し始めていたが、気力を駆使し平静な雰囲気だけはなんとか保ち、ゆっくりと視
線を多方向にスライドさせてみた。 緊急事態的違和感がYを包み込んだ。 ((いったいこれは、なに?))
Yはさりげなくその小皿を退けて、再会出来たそのアワビをそっと手に取った。 釈然としないまま、Yは出来上がった折詰を待客に手渡し、平常通り清算を済ませた。と 同時に奴はありがとうの一言も無く足早に店を後にしたのである。 こうしてこの奇妙なひとときは何事もなかったかのようにさらりと流れ、カウンターには 常連客がひとり残った。
それにしてもおかしいではないか。アワビは間違い無く丸のまま噛み切ろうとした意志が
みえる。何度もチャレンジした歯形のあとが二重三重にあるからだ。そしてとうとう噛み
切れなかったのだ。 かくして再び店内に平穏が訪れた。 それから少しばかりの間をおいて、徳利に残っていた最後の冷酒一滴をオチョコに振り入 れていた常連客がおもむろに口を開いた。
「え~実は・・・さっきは言えなかったんだけどさ・・さっきの奴、本当はアワビを手づ
かみでかぶりついたんだよな~。」 さて、この歯形アワビはどうしよう。
Yはそれとなく常連客に振ってみた。
余談ではあるが もちろんYの申し入れを断る理由などはない。
今回のものはソースが斬新らしい。
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