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第47話  Jは凄腕エンジニア

 
   
顔面に負った複数の裂傷から多量の血液を滴らせ、突然Jは舞い戻った。
「どうしたんだ、お前!顔中血だらけだぞ!」
「まじで?やっぱ顔もいってんのかよ。それより背中が超痛て~よ」
その裂傷は全身に及んでいるのだろう。目を凝らすとTシャツからジーンズまで至る所ボ ロボロに破れ、そこからも鮮血が滲んでいた。
「それにしてもお前すごいキズだなあ~いったい何があったんだ。それに、あのバイクは どうした?」
「ん~それがさ、あの時・・・・・」

高校2年の頃だった。ポコポコと走るYAMAHAミニトレ50が私の相棒だった。そん な、なんとなく全てがのどかな時代、幼馴染みのJが何処からかスクラップで朽ち果てる 寸前のSUZUKI380(サンパチ)を拾って来た。どう見ても粗大ゴミである。車体 全体が歪にひしゃげたうえ茶色にサビ付き、そのサビが幾層にも浮いてしまっている。車 体の中央部分にエンジンらしき物は付いているのだが、おそらくボルトが数本抜け落ちて いるのだろう、グラグラと揺動いていて辛うじて原形がわかるという始末だ。ガスタンク はといえば、まるで空気の抜けたラグビーボールであった。
苦節半年、この気の遠くなるような、ならないようなまぎらわしい歳月を掛けて、Jはそ れを見事に再生させていた。
学校なんかには行かず、貴重な青春の日々を真面目にせっせっとバイクの修理に費やして いたのだ。あれだけふらふらと遊び歩いていた男が、昼夜を問わずバイクにつきっきりで ある。勉強にこれだけ精を出していればどんなにも凄い男になっていたかもしれないと思 った。手に入らない部品に関してはワンオフで全てハンドメイド、旋盤使いも堂に入った ものだ。いちばん驚いたのはガスタンクであった。潰れたラグビーボールが、今は透き通 るほどのスカイブルーに仕上げられ、センターを走るホワイトリボンがスマートであった 。エンジンも見違える程にピカピカに磨き上げられ、内燃機関のオーバーホールも完璧で あった。
とうとう素敵に出来上がった時点で、私とNはJに呼ばれたのである。

そう、その日はJが決めた初試乗会の日であった。
まるで新車の輝きを取り戻したSUZUKI380、それは目にも眩しい存在だった。以 前の廃物だった姿を知っているだけに、エンジニアとしてのJの凄さを再認識させられた 。これだけのクオリティーの高さとスタイリングやカラーリングのセンスの良さは天性の ものかもしれないとつくづく思った。

「どうだ、すごいだろ。遂に完成したぞ!」
Jは満面の笑みでこちらに顔を向けた。
「うわぁ~すげぇじゃん!まるで新車じゃね~か、勉強もこれだけやれば一番じゃね~の か?」
皮肉を込めて私が言った。
「アホか、そんなことより今日お前達を呼んだのは他でもねぇ。これからこれの試乗会を やるんだ。」
「まじで、俺達にも乗せてくれんの?」
「ああ!だけどやっぱり俺が一番に乗るから、次にお前ら乗せてやるよ!」
「一番って、J、お前免許ないじゃん!」
Nは痛い所をついた。
「ん、うん、この近所一周だから大丈夫だろ、心配すんな!」
警察なんか関係ねぇとばかりに、Jはエンジンに火を入れた。

キキキキーバァウンーボボボボボー!

SUZUKI380は敢然と息を吹き返した。
あの朽ち果てる寸前だった代物を生き返らせたのだ。
この時程Jが神々しく見えた事は無かった。
Jはガスタンクと同色にペイントし、美しいホワイトリボンの入ったフルフェイスを装着 した。
「おおっカッコイイ~」一同から拍手が沸き上がった。
メットまでペイントしていたとはさすがであった。
「じゃあ、行ってくるぞ。お前ら楽しみにまってろよ~!」

バタバタバタバタバター!

目覚めたマシーンは重低音で、あたりに重振動をまき散らしながら細い路地の中心を駆け て行った。その走りは真新しいバイクとなんの遜色もなかった。
ただ何かが違った・・・・?
何かが足りない・・・・何だ・・・・何だ。

そうか・・・ナンバープレートがないんだ。

Jはバイク製作に夢中ですっかりナンバープレートの事は頭に無かったようだ。もちろん 役所に申請したところで「はいどうぞ!」と言ってくれる訳はないだろうから、どうせな らプレートまでもなんかカッコイイやつを作れば良かったのだ。そういったわずかなポカ がJの惜しい点だ。

私とNはJが帰って来るのをじっと待っていた。
5分経っても帰って来ない。10分経っても帰って来ない。近所を一周と言っていた筈だ から、直ぐにでも戻って来てもよさそうなものだ。しかし、あのバタバタの重低音も消え 去ったまま、一向に帰って来る気配はない。
私達は結局30分程待った、が、当分帰って来ないのではと判断し、一旦Nの部屋へと戻 る事にしたのだ。
きっと楽しくて楽しくて私達の事など忘れて乗り回しているに違い無いのである。ガスが なくなれば時期帰って来ることだろう。

時刻は夕方の5時を少し回ったあたりだった、帰る途中小腹のすいた私達は「きよし食堂 」に立ち寄った。この店は古くからの一杯飲み屋的要素を含んだ食堂で、金の乏しい人々 の憩いの場でもあった。私達はいつもの「定食」を注文した。そう、何々定食ではない、 ただの「定食」なのだ。しかも値段は200円なのである。品数は3品。具はたまねぎと にんじんにたまごを溶き入れた大振りの味噌汁、それにご飯と二切れのたくあんである。 その味噌汁に唐辛子を多量にぶっ込み食うのである。これがまた絶品なのだ。

夏の夕暮れはまだ先にある。きよし食堂を出たのは6時頃であったが、依然太陽は強い光 で町中を照らし続けていた。「定食」で満腹になった私達はその足で部屋に戻り、おのお のバイク雑誌を見ながらくつろいでいた。
そんな時だ。
突然ガタンッと部屋のドアが開き、ハーハーと荒い息を弾ませJが部屋へと転がり込んで 来たのである。

Jは家を出て、ひとつめの交差点を右折した所で未知との遭遇、はやくもパトカーと出く わしてしまったのだ。心の準備もないままびっくり仰天、手元のおぼつかないJの慌て振 りを警官達は見逃す訳は無かった。すれ違いざまにバイクを凝視された時、あのナンバー が無い事を直ぐに気付かれたのかもしれない。すかさずマイクで停止命令が発せられたの である。しかしJとて、ここでやすやすと捕まる訳にはいかないのだ。
すかさずアクセルをめいっぱい絞り上げた。パトカーは直ぐに交差点の広さを利用し、急 速ターンで追跡して来た。無情にも次の信号がこの茶番をあざ笑うかのように赤に変わっ た。しかしJはその勢いのまま突っ切ろうと試みたのだ、が、交差点左から車が進入して 来ていた。このままでは追突してしまうと直感したJは急ブレーキをかけた。
バイクはケツを右に振り、バランスの取れなくなったJもろとも横転、そのまま路面を滑 るように転がったのである。幸いな事にこの時点ではJはまだ無傷であった。すぐに立ち 上がると、バイクはあきらめ、今度はただひたすらGOWEST、西へつっ走ったのであ る。それを目撃していたひとりの警官は直ちにその後を追った。Jは住宅街を必死で走っ た。
走り続けていると、10メートル程前方に生け垣のある民家が目に入った。Jはひらめい た。一旦身を隠そうと、そのままその生け垣に突っ込んだのである。運良く生け垣を突っ 切る事に成功したのだが、そこには庭を掃除しているおばあちゃんがいたのだ。おばあち ゃんは大慌て、大声を出そうかという寸前、Jは言った。
「すいません、かくまってください!悪いやつらに追われています!」
良く言ったものだ。お前が悪いやつだ!
その必死の形相に、おばあちゃんはにっこりと微笑んだ。
そのままかくまってもらい小一時間が過ぎた。警察に捕まることは避けられたのである。
だがその代償に、Jは体に大きな損傷を負ってしまっていたのだ。例の生け垣だ。そこに 突っ込んだまでは良かったのだが、その内側には有刺鉄線がびっしりとはり巡らされてい たのだ。当然それにも突っ込んでしまっていたのである。頭部から顔面にかけてと肩から 腕回り、胸回りに無数の裂傷をおってしまっていた。まるで「大脱走」のスティーブ・マ ックイーンさながら、その痛々しい姿に目も覆いたくなるほどなのだが、とうとう病院に は行かなかった。
数週間後、Jは赤ちんのみで辛抱強くキズを完治させていた。
コツコツと半年をかけて作り上げ、無くしたのはほんの数分足らずであった。その不遇な バイクは結局警察が持ち主を特定出来なかったとみえ、しばらくの間警察署内の駐車場に 放置されていた。それを目にするたびにJは悔しがっていたが、冗談にも警察からバイク を奪回しに行く事はなかった。
それから一ヶ月もすると愛しいバイクの姿はなくなっていた。
おそらく処分されたに違い無い。

あれからだったのかもしれないな、Jの運命が傾きはじめたのは・・・・。

河原をも一帯に含む、広大な牧場を自由に走り回る馬達を遠目に、Jは私にぼそりと言っ た。
「いいよな~・・・俺・・・馬になりて~な」
「え!・・馬・・そうだな・・・お前ならそのうちなれるんじゃね~の?」
湿気を多分にふくんだ川風が、キズの癒えたJのほほをペロリとなめた。

 
   
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