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HOME > COLUMN > 第42話...十和田湖ぐるり珍紀行 |
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第42話 十和田湖ぐるり珍紀行 |
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アスリートの身体能力は計り知れないものだと痛感した日でもあった。 2007年夏、十和田湖の湖周をぐるりと一周50キロ、徒歩の旅をした。 八戸を午前3時に出発し、午前4時40分には出発点である休屋(やすみや)に到着した。 現地は生憎の霧雨模様、本格的な雨なら中止にしようと思っていたのだが、この程度であ れば当然決行である。 第一の目的地、瞰湖台(かんこだい)展望台へと進路をとった。平たんな舗装路から山道に 差掛かり、その山道の景色をまのあたりにして愕然としてしまった。 この荒れ様はまるで廃道ではないか。以前のしっとり静然とした面影は微塵も無く、歩道 には幾つもの大きな亀裂が走ったうえに、その亀裂からは多種雑草が生い茂り、アスファ ルトの部分はといえば、苔むし深緑色へと変色している始末である。ここ最近誰かが通っ た形跡がまったく見受けられない。子の口(ねのくち)から休屋までを結ぶ新トンネルライ ンが完成し、よっぽどここに用事が無い限りは、車とてこの道を通る事は無いのだろう。 山道両脇には背の高い樹木が密生し、あたりは薄暗く湿っぽい空気が流れていた。 こんな樹海と化した現状をたったひとりで歩くのは、軽く背筋が凍る思いである。前後左 右に気を配り心で霊気を払いながらも、1時間程で展望台へと到着した。 やはりここも居心地のいい雰囲気ではない。一連の美しい景色をカメラにおさめた後、以 前ここで命を落とした友人の冥福を祈り、休む間もなく次ぎの目的地である子の口へと向 かったのである。 不思議な事にこのあたりは倒木が多かった。だいたいが根まで露出し、まるで無理矢理巨 人にでもなぎ倒された様相だ。いったいどうなっているのだ? 山道の出口に到達したが、とうとう車一台、人っこ一人会わなかった。 ここで雨が強く降り出して来たので、子の口までの道を足早に進んだ。昨夜の天気予報は くもりと言っていたはずなのだが~そのせいで薄いマウンテンパーカー一枚しか用意して はいなかった。 子の口の商店街をなんなく通り過ぎ、しばらく歩を進めて行くと、前方に本格的な峠道が 姿を表した。 入口付近に(熊出没、注意!)の看板。
一瞬の狼狽は避けられなかった。 私は思いっきり歌を歌ったのだ。世界の矢沢を!
矢沢永吉メドレーを20キロ、そう約5時間近く歌い続けたのである。 苦難の落とし穴はその途中にちゃっかりと用意されていた。 ゴゴゴーと、突然ヘリコプターのような轟音を響かせて、何者かが私の右耳の真横を後方 から前方へと突っ切ったのである。耳横5センチ足らずの極近での爆音に驚き、反射的に 手に持っていたステッィクをそれに向かって振ってしまったのだ。 それは超大型スズメ蜂のハッチ(仮名)であった。
この行為は最もしてはいけないものだったのだろう。先制攻撃を受けたと勘違いした傍迷
惑なハッチは、私の数メートル前方でアニメの一コマように華麗にUターンするや、間違
い無く私を目掛けて、ケツの針をギリギリまで露出し攻撃を仕掛けて来たのである。老眼
が進行ぎみの私の目には、遠目だからはっきりと鋭い針が視認出来ていたのだ。
やはりこの出来事のおかげで、全てのペースが狂ってしまった。満身創痍という言葉を味
わうには、充分素敵な状態である。
滝ノ沢峠展望台に到着して、ホッと一息つく事ができていた。と同時に、この山岳地帯と
も呼べるような山奥で、いったい私は、たったひとり何をやっているのだろうと思った。
まるで命を掛けた修行ではないか。この年になってこんな所でこんな危険な事をしてどう
なるのだ。だが今更どう考えようと歩き続けなければならない。なぜなら私はここでひと
りっきりなのだ。マイカーは休屋に置いてきたし、誰かが助けてくれる生易しい環境では
無いのだ。突き進むしか道は無かった。
ここまでくれば残り約20キロだ。15分程休憩を取った後、立ち上がろうとすると足全
体に激痛が走った。どうやらエンドルフィンが切れたようだ。我慢してでも歩き出せば再
び放出されて痛みは軽減するはずだ。 食堂に入ると客は私ひとりであった。突然の来客に戸惑うスタッフを後目に、早速山菜ソ バを注文したのである。歩き始めて9時間ぶりに温かいものを口にすることが出来た。思 っていた以上にエネルギーを消耗していたのだろう、途中3個の菓子パンを完食していた のだが、これもあっという間に平らげた。
その時である、おもむろにその店の主人が口を開いたのだ。 エネルギーをたっぷり補充した私は、皆さんに礼を言い再び歩き始めた。このあたりまで 来ると精神的緊張もほぐれ、リラックスした分神経が足の方に向かったのだろう。再び足 全体が痛み出した。すでに立っているのが精一杯の状態ではあったが、負けじと前へ前へ 一歩一歩、無心で進んでいったのである。
ラストウォークは、あまり良く覚えてはいない。 ただ、あの命知らずのアウトロースズメ蜂ハッチの、息を抜かない奇襲攻撃と無気味な羽 音の恐怖だけがしっかりと脳裏に焼き付けられた。
(キキーグワン、ボボボボー)エンジンが始動した。
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