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HOME > COLUMN > 第35話...この木なんの木気になる木 |
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第35話 この木なんの木気になる木 | |||
以前、店は馬場町にあった。 店の左隣は老夫婦が営む古本屋で、右隣にはホテルの大きな駐車場があり、境界は高さ2 m程のコンクリートの屈強な塀で隔ててあった。その塀と店との間は幅50cm程空間があ り、未だその部分の地面だけは土の状態で残っていた。 私は約二ヶ月間を費やし、この店の内外装を自身で造作し、うららかな初夏の頃5月初旬 にはなんとか完成を見る事が出来たのである。オープン前日までにはどうしても間に合わ す事の出来なかった、店の玄関先の上部をコートする為のストライプのテントも、オープ ン初日の午後の早い時間には設置を完了する事が出来た。 そして、そのテントの設置作業をして頂いた業者の方に、店の商品であったウォーターウ ォッチと言うドイツ製の腕時計(¥1000)をお買い上げ頂き、これが商売としては最 初の売り上げであり、それによって第一歩を踏み出したのである。 だが、その記念すべき初日の売り上げは、悲いかな唯一それだけだったのである。 (業者の方に買ってもらって本当に良かった。テント設置作業が今日にずれ込み、反って タイミングが良かった。ゼロスタートじゃ洒落にならないもんね!) たっぷりと苦渋を味わった初日の屈辱的売り上げと暇さ加減にもめげずに、翌日もしっか りと店を開けた。 玄関ドアを開け放ち、玄関先をほうきで丹念に掃き清め、仕上げはジョウロでの水撒きで ある。その水を撒いている最中に、例の店と駐車場の隙間の土の部分に、たった今芽吹い たばかりの小さな双葉の植物を発見したのだ。 そこで、ついでなのでその幼葉にも水をやってみた。 それからは毎日の玄関掃除のたびに、必ずその幼葉にもジョウロで水をやるのが習慣にな っていった。 灼熱の夏が過ぎその年の郷愁漂う秋がやって来た。私の商売はと言えば、案の定ポールの 身長の様に伸び悩んではいたが、それとは反比例するがごとくに、あの幼葉だけは元気一 杯に伸び続け、身の丈20cmを越える小さな木と呼べる存在にまで成長していた。 この時点で既に幼葉の成長は、遥かに店の成長を抜いていたのである。 やがて木枯らし吹き荒れる冬が訪れ雪も降り出し、辺り一面が銀世界へと変貌する頃、私 はこの木の事をすっかり忘れ去ってしまっていた。なぜなら、その後も日々の営業に四苦 八苦に七転八倒悶え苦しみ続け、木どころの騒ぎではなかったのである。 そんな調子ながら、沈みそうな船を全身全霊で漕ぎ続け、なんとか迎える事の出来た翌年 の春である。 雪が解け、私はビックリしたのである。あの幼い木は厳しい寒さや圧雪なんのその、密か に成長を続けていた様子で、見ると高さ30cm余りにまで伸び、幹までもなんだか力強く 太くなっていたのだ。 逞しい生命力である。時も経ち、5年後には高さは3mにまで達し、細くて青いインゲン に似た実まで付けるまでになった。すくすくと成長を続け立派な木へと成長したのだ。 が、何と言う名前の木であるかは全く不明であり謎であった。と言うのも、今までこんな 形の木を私自身一度も見たことがないのである。 隣の古本屋のおじいさんにも窺ってはみたが、やはり初めて見る木だと言うのである。 いったい何者なのかとんと見当がつかないまでにも木は増々成長を続け、10年が経過し た頃には、この街のまん中で高さ8mにまで達して巨木化していた。 しかも太くなった幹のせいで、店の玄関脇の壁が押されてひび割れが入り、壁自体が店内 側に傾いてしまっていた。 もちろん50cmもあった駐車場との隙間は完全に埋まってしまっていたのだ。
その年の初秋の頃、どこからともなく軽トラックに乗って表れた初老の夫婦が店を尋ねて
来たのだ。
時々友人達と酒を飲んでは極稀にこの木の成長の話しをするのだが、ほとんどの人は双葉
からの成長を全く信じてはくれない。 だから、未だに気になる木としか言えないのである。
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