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第27話  時代はアイビー?

 
   
仕事柄と言う訳では無いのだが、スーツを着る機会のめっぽう少ない私はスーツ自体には さほど興味を持ってはいなかった。
現に私の所有する唯一のスーツは、二十歳になった時にお祝として祖母に買って貰った細 身のアイビースーツであり、既に年代物(ビンテージ)と言っても過言では無かった。

話は数年前にタイムスリップするが、私が商売をスタートさせるにあたり大変お世話にな ったAさんと言う方がいる。
Aさんは神戸を本拠地に大阪、熊本、東京などにもたくさんのお店をもち、インポート雑 貨の卸しから各地に飲食店やケーキ屋なども経営する大変やり手の方である。
そのAさんから、結婚披露宴の招待状が届いたのである。もちろんAさん自身の結婚披露 宴だ。
その為、私はその一張羅のスーツをクローゼットの奥から引っ張り出し、自身の現在の体 型に合うのかどうかを試してみる事にしたのだ。すると、ジャケットは体に張り付く程に ピチピチであり、さらにパンツは極端に短いのである。
今更早急にスーツを新調する気もなかった私は、とりあえずパンツの丈を伸ばしてもらう と言う応急処置を施し、この年代物のスーツで結婚披露宴に臨む事になったのだ。

披露宴は神戸の奥座敷である有馬温泉で、六甲山の中腹に建つ由緒正しい大層立派な洋装 建築のホテルで行なわれたのである。
御来賓の方々といえば、やはり全国津々浦々からおみえの様子で、私の知る顔は皆無であ った。だが、披露宴前のまだ皆さんが私服でリラックスしながらの歓談中にAさんの方か ら、新潟からみえた神主を生業とする友人や、九州は熊本でお店を管理されている友人、 そして大学時代のサーフィン仲間などを紹介して頂き、私は皆同年代と言う事もあって直 ぐに意気投合し打解ける事が出来ていたのだ。
その方々は本当に気の良い仲間達であり、私もまるで昔からの友人の様な感覚をもったも のである。穏やかで愉快な時間が流れ会話も弾み、そうこうしている内にいよいよメイン イベントである披露宴の時間も近付き、皆も礼装へと着替える時がやって来たのだ。そこ で皆、歓談室とは別に用意されていた着替え用の部屋へと移動したのである。

((私はスーツを新調して来るべきであった!))

私自身着替えをしながら他の皆を覗いて見ると、皆タキシードなのである。これにはさす がに驚いた。
あの新潟の神主さんなども、自前のストライプの入った品の良い茶のタキシードなのだ。
しかも皆、タキシードに合わせたピカピカのドレスシューズを履いている。大人のお洒落 を楽しんでいるのだ。
片や私はと言えば、パンツの丈を伸ばした例のピタピタスーツに、あろう事か、
細目のレジメンタルタイなのである。
そして靴までも、ただ黒いだけの限り無く貧粗な代物なのだ。
タイを巻く時などは、あまりのばつの悪さにひとり便所のかがみの前でやったものだ。い っそこのまま帰ろうかとも真剣に考えた程である。
だが、やはり大事な方の披露宴であり、その為に遠路神戸までわざわざ足を運んだのであ る。絶対に帰る訳にはいかない。
意を決した私は、レジメンタルタイを閉め直しリーゼントにクシを入れ、まるでフィフテ ィーズのリズムアンドブルーススターのようなスタイルで会場へと向かったのだった。
向かう途中もやはり私だけ浮いてしまうのだが仕方がない。行くしかないのだ。

((だが、である。なんとそこには粋な神がいたのである。))

会場へ到着して見てこれは驚いた、と言うか助かった。なんと、披露宴会場は純和風のお 座敷にお膳料理であったのだ。
あのAさんはと言えば羽織袴の出で立ちで、お嫁さんは美しい着物姿で雛壇へと鎮座して いたのである。
私はこれを見た時点で、かなり気が楽になった。
この会場ではタキシードもピカピカのドレスシューズも無用の長物なのだ。

私は貧粗な靴を意気揚々と脱ぎ捨て、さっそく自分の席へと着いたのだった。
その横にはタキシード姿の方々や、華やかなドレス姿の女性の方々も、ドレスシューズと パンプスを脱ぎ捨て座布団に座っているのである。
逆にどうみても彼等の方が私には不自然な姿に映って見えたのだった。
(当然、端から見れば私もその中の一員なのだが)
そして気持ちを取り戻した私にとっては、新たな友達もたくさん出来た本当にすばらしい 結婚披露宴だったのであった。
めでたしである。

その後、神戸から帰った私は、さっそく新しいスーツと靴を揃えていた。
何があっても直ぐに対処出来るようにと。
しかし、そんな感じでいろいろと揃えたりすると今度は案外なにもなかったりするものな のだ。人生とはそんな皮肉なものさ!
もちろん伝説のあのアイビースーツも未だに持っている。
余談ではあるがその数年後、これまた昔からの友人で雑貨メーカーを立ち上げているKと 言う男が、渋谷の何と言うホールだったか今思い出す事は出来ないが、自身の結婚披露宴 を催した時があった。
もちろん出席した私は、あの神戸の後買っておいた例のスーツに初めて袖を通したのであ る。
準備万端の甲斐もあり、滞りなく気後れもなく披露宴も平穏に幕を閉じたのであった。そ の後二次会、三次会と宴会も続き、彼等の幸せを祈りながらも深夜解散したのである。
翌日、私は帰郷の為ホテルをチェックアウトしその日の午後には無事八戸に着いたのであ った。

そして着いてから気が付いたのである。
あのスーツをホテルのカウンター前の所に設置してあった、ローテーブルの上に置きっぱ なしで帰って来た事を。

早速連絡はしてみたが、やはり後の祭りであった。
よくよくスーツには縁が無い様である。

 
   
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