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第203話  しこりは唐突に

  それに気が付いたのは朝だった。
目覚まし時計が無機質な電子音を室内にまき散らした途端、それを待っていましたとばかり瞬時にそれを止めて、私はひと息ついた。この起き掛けの時間あたりはすでに眠りは浅いような気がする。おもむろに枕元にあるテレビのリモコンを手に取りスイッチを入れる。NHK総合では朝のニュースが流れていた。寝ぼけ眼で少しだけそれに目をやりぼんやりと眺める。眺めているうちに徐々にではあるが意識と言うものが覚醒を始める。
「さぁ起きよう」
まったりとした後、そう決意しベットから下りようと左足を先に床に着けた時だった。
「んっ」
その左足裏に違和を感じた。痛いものではなかった。何だかふわりとした、小さなスポンジでも踏んだかのようなゆるい感触がかかと付近にあった。
なんだ?私は半分ベットに体を預けた格好でその違和感のある部分を左手で触れてみた。
ぷにょぷにょとした小さな水風船のような物体がかかと内部に潜んでいる。なんだこれは、初めての経験だった。それでも痛くもかゆくもない、まぁそのうち自然に治るだろうとその場はほっておいていつもの生活を続けた。それから3日も経ったころだろうか、そのぷにょぷにょは少しだけ硬くなりそして少しだけ痛さを感じるようになっていた。
どうやら成長しているようだった。
その翌日はますます硬くなり、その部分に触れるだけでなかなかの激痛をもたらす存在に変化していた。当然ながらシューズの着脱時から歩行時まで痛みを感じるようになっていた。これ以上ひどくなっては生活自体に支障をきたすだろう、やはり病院に行ってみようか。
私は考えを巡らせ、私自身の考えとして整形外科に行ってみる事にした。
「は~これはうちではないね、これは皮膚科でしょ、皮膚科に行ってみて」
整形外科の先生は影も何も映ってはいないレントゲン写真を見ながらそう言った。まさか、であった。これは皮膚科ではないだろうと思いながらも、それでもそう言われたら仕方がない。私はその足で、その整形外科の目と鼻の先にある「皮膚科」に向かったのである。
案の定だった。
「あ~これはかかと内部にあるしこりですよね、これは整形外科で見てもらった方がいいですよ」皮膚科の先生は触診しながらそう言った。やっぱり、と私は思った。
そこで先の整形外科の話をさせてもらった。
「そうですか、それならもっと詳しく診察できる整形外科を紹介しますね。紹介状も書いてあげますから少し待っていてください。」
先生はそう言うと奥の個室へと消えていった。
その紹介された整形外科へと行けたのはその翌日だった。
「はは~これは痛そうだね、どうする?注射でもしとく」
診察台にうつぶせに寝ている私に向かって患部を触診しながらかっぷくのいいその先生は言った。
「注射?何の注射ですか」
「痛み止め、それで様子見てみましょうか」
痛み止め?痛み止めをうてばその得体のしれないしこりが治るのなら喜んでうつのだが、ただ単に痛みだけを軽減させて置くだけなら何の意味があるのだろう。
「そのしこりは何なのか知りたいんですけど?」
私がそう言うと、ひと呼吸おいて先生が言った。
「注射してみましょう、それからですね」
何もせずに散々病院を回された私は、今回はとりあえずどうなるのかその注射をしてみる事にした。「内容物がわかるかもしれないからね」私に付いた看護師さんもそう言った。
硬く張りつめたかかとへの注射はひどく痛いものだった。数えていると6カ所程に針を刺していたと思う。どこに刺したかは見ていないので定かではないが、あちこちに刺していたのは間違いないところだ。そのしこり自体にも刺していれば次回事実が判明するに違いない。かかとに大きな絆創膏を貼られた私は、風呂シャワーは明日からにしてくれと言われてその場を後にした。処方箋で薬局から多量の薬が付与された。中身を確認すると鎮痛剤に胃薬に湿布薬がたっぷりと入っていた。
数日経っても痛みはまったく変わらなかった。
1週間後、私は再びその整形外科の扉を開いた。
「どうですか具合は?薬は飲んでましたか?」
診察室付け看護師さんがそう聞いてきた。
「鎮痛剤は根本的治療ではなさそうなんで飲んでなかったです」
私は率直な感想をつけてそう言った。
「へ~じゃあ大したことは無いんですね」
パソコンを眺めこちらに目を向けることもなく彼女はそう言った。
大したことがない?痛いから来院しているのに・・・その言葉に不信感が宿った。
「いえ、痛いですよ」
それ以上を言う前に先生が姿を表した。
椅子に腰かけた先生に、彼女は私が薬を飲んでいないことなどさっきの内容を口頭で伝えていた。私はそれをじっと聞いていた。
「どれどれ、痛みはどう?」
先生はそう言うとテーブルのパソコンに目をやって何やらパチパチとキーボードを指で叩いた。
「まったく変わらず痛いです、内容物はなんだったんですか?」
前回そのしこりの内容物の検査等終わっているのかと思っていた私はそう聞いてみた。
「んっ見てないからわからないよ」
先生はこちらを見ずにそう答えた。
その乾いた返答に私は愕然とした。
痛みに耐えたここ数日間はなんのためにもならない無意味な日々に思えた。
「血液検査でもしてみる、そこで何か判明するかもしれないから」
再び先生が口を開いた。
「わかりました、じゃそれをお願いします」
何が原因なのか知りたい、嚙み合わない流れの中、私はその血液検査を受ける事に、取り合えず、決めた。
これが回りに回って3つ目の病院なのだ。何をしているのだ、本当にこれでいいのか?
数日後、私は迷っていた。血液検査の結果を聞くためにまたあの病院に行くのか、それとも新たな4つ目の病院を探すのか。こんな事は初めての経験だった。
ただ、その病院に行くのだけはやめた。
迷いに迷いすでに2ケ月が過ぎた。未だにかかとにはやや小さくなりますます硬くなったしこりがひとつある。そこをぶつけなければ通常生活に支障はない。
私は、もう少し様子を見ることに決めた。

 
   
   
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