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第201話  ストーブを買う

  3月頭の休日に奥中山スキー場へと向かい、そこで思う存分スキーを楽しんで今季のスキーは終了とした。どこかで区切らなければ次へと進まない。
その次、として考えていたのがこの3月中、雪の残る八甲田高田大岳に登ることだった。
数年前にその雪の季節の岩手山や津軽の名峰岩木山には登ったことがあったが、八甲田は初めての事だった。
取り合えず12本歯のアイゼンとスティック2本を持参し、現状はどんなものなのか下見に向かってみた。雪は思っていたよりもまったくもって深かった。アイゼンなど何の役にも立たない程に積雪量が半端ではなかった。股座までも沈み込んでしまう。
このまま進んだとしても登山的に難しい事は明らかだった。そこはすぐに引き返しアウトドアショップへと向かい、スノーシューを手に入れた。
翌週の休日、そのスノーシューを持参し曇り空のなか八甲田へと向かった。酸ヶ湯温泉そばの大きな駐車場に着くなり空模様が怪しくなり雪が降りだした。天気予報は曇りのはずだったがここ山岳地帯での急変は致し方ない。少しばかり車の中で待機したが一向に止む気配はない。ますます雪は強くなるばかりだった。これでは無理だろう、そう決断しこの日も敢え無く帰還した。
ただ準備は万端である。翌週、凝りもせずに八甲田に向かう。天気予報の絵はニコニコと晴れた笑顔を表示していた。これならいけるか。
酸ヶ湯の駐車場に到着したところ、晴れと言うよりは曇り空だった。雪がないだけで気持ちが昂る。道路端の2~3mほどの雪の壁をよじ登り、そこで早々に持参してきたスノーシューを装着した。調子は良さそうだ。夏の記憶を辿りながら、多分そっちだろうと思われる方向に向かう。もちろん思っていた通り登山道なんてない。戻るためには私の足跡だけが頼りだろう、と、考えていた私の視線の先に立つ大きな木の上方に、丸形の赤いスチール製の案内板が見えた。まじか、これには正直ホッとした。夏場には完全に見えないだろう高所にこんな案内板があったなんて夢にも思っていなかっただけに、心は安堵に包まれた。これならいける。
その案内板を頼りに私は登り続けた。曇ってはいるが雪は無い。
しばらく林の中を進むと大きく視界の開けた場所に出た。ここって、もしかして、私は目を疑った。夏の記憶が蘇る。確かここは硫黄を含んだ水が流れる大きな渓谷があった所ではないか。そこには四角柱の木の橋が架かっていてそこを渡って向こう側へと渡らなければならないところだった。その渓谷はすっかりと積もる雪に覆われ別世界へと変貌していた。
この季節ならではのなんと言う壮大な景観だ、素晴らしい。感動が胸を過る。
夏場では川に架かる橋を渡ってからの岩場を、乱雑な階段を登るように登らなければならなかったが、今ではその谷だったところの上を直線的に登っていけてるとは、不思議なものだ。
しばらくそのまま進むとその渓谷が終わりをつげ、高田大岳が望めるところまでやって来た。そこで私の眼に飛び込んできたのが、山小屋(避難所)だった。かつて何度となくこのあたりを通っているはずなのだが、その存在にまったく気が付いていなかったものだ。それだけ今は雪が積もっていて高さがでて、今まで見えなかったものが見えるようになっていると言う事だ。
そこに山小屋がある事がわかったことはこれからの登山活動に大きな安心感をもたらす。
しかしここからだった。突然風が強くなり小さな雪が降り始めてきた。まさか、である。山の天気はこれだから信用ならない。それでもそこに山小屋があったのはやはり心強い。
これくらいの雪ならと歩みを続ける。一歩一歩と進むと傾斜がきつくなってきた。高田大岳のふもとまでにやって来たと思われる。思われるとは、先ほどまで見えていた山頂が雲と吹きすさぶ雪に隠れて全く見えてはいないのだ。その雪は徐々に粒が大きくなり山頂どころか私の周りまで霞んできている。このままでは私の歩んできた足跡まで覆いつくしてしまうかもしれない。それは私の生死にかかわる問題でもある。ここはひとまず退散、例の山小屋まで戻って少し時を待とう、そう考えて一時足跡をたどり戻った。そしてその山小屋を視界にとらえられるところまでくると、やや雪と風が弱くなってきた。それならと再びアタック。するとまた風雪が狂暴化する。これはよっぽど八甲田に嫌われているのかと考えてしまう。この行動3度目、とうとう諦めてそこから山を下りた。雪山で無理は禁物だ。残念ながらここで退散となった。悔しさが残る。
翌週の休日、この日はいつもに増して天気予報は上々である。気持ちは折れてはいない。
山に着き登り始めても太陽が姿を晒してくれている。あの渓谷を超えて例の山小屋あたりまで来るとまた急に風が吹き始めた、そして案の定雲が、いやこれはガスか、濃いガスがあたりを覆い始めた。マジか、私は私の運命を呪った。私が一体ここで何をしたと言うのか。
ただ、先週の経験は大きかった。あたりは霞んではいるが先週と同じように同じ方向に進む。今回は雪が無い分安心感はあった。足跡が消えないから。
どんどんガスは濃くなりあたりはまるで米のとぎ汁のように白濁した。ただ足先は見える。そのまま登っていると雪に埋もれていた木々のてっぺんがずらり見え隠れしている一帯に突き当たった。この先はたぶん行き止まりだろう。ここからどちらに進むか、私は考えた。夏のイメージを頭の中で探り出す。恐らく右だろう。そう考えた私は右へと進路を切った。しばらく進むとイメージとは裏腹に行き止まりな感じだった。すぐさま今来た道を戻る。進路を変えた場所に戻った私はさっきとは逆の左方向に進むことにした。しばらく進むとまたまた木々の頭が乱立していた、また行き止まりな感じ。どうしよう?
白んだあたりを見渡し考える。相変わらず強風が吹き荒れる。
するとその木々の頭がずらり居並ぶ先に角木柱が影のように立っているのがぼんやりと見えた。もしかして、あれは何かの目印か?私は足跡が消えてしまう事もいとわず木々の頭の上をそちら側に向かって進んでみる事にした。木々の脇には空洞になっている部分が点在し体の半分ほどまで落ちたりもするのだが何のその、それをかき分け進んだ。
それは山道を示す道しるべだった。助かった、ここを登れば頂上に到達できる。
ただ、下山の事も考え、元来た道を戻れるように埋もれている石ころを拾い集め、今来た道の方向に向けてそれを4個並べて方向性を確保した。それからその雪に覆われてなんとなく山道らしく見えている経路を進んで、とうとう登頂することに成功した。
山頂はますますの暴風、さっさと私は山を下りることにした。やはり、たぶん、嫌われているだけに、何があってもおかしくはない。そしてなにより寒い、寒くて仕方がない。迷っている時はそれほど感じなかったが、強い風が汗をかいた体を吹き抜け体温を急激に奪っていく。ブルブルッと体が震える。尿意が湧いてくる。ええい!嫌われついでだ、私は激しい横風を受けながら放尿してやった。こんちくしょう、温かい液体はその程よい風に乗り白く霞んだ永遠の世界へと一滴残らず消え去っていった。さぁ下りよう。
私は、たった今登って来た道を従順に下りた。山道らしき道をそのままは下りずに、石で作った目印通りに木々の頭たちを超えて素直に下りた。下方に足跡がはっきりと見えていた。下りるのは早いもんだ。なんの迷いもないから・・・。
あの山小屋が見える付近までくるとすっきりとガスは消え風も微風へと変わり、山はすっかりとやさしさを取り戻しているように見えた。不思議なものだ、またそう思った。
小さなガスボンベストーブを買おう、それがあれば心強い、そんな考えが頭をよぎった。

 
   
   
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