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第186話  正しい歯磨きの仕方

  太陽の日差しに力強さがぼんやりと増しつつ、雪解けがやんわりと進む3月は下旬の頃。
「あ~この歯は被せてあるやつが緩んでいるんじゃなくてもう根っこの方がダメになってるね」。
大きく開けた私の口の中を覗き込みながらK先生は言った。
「えっマジですか、じゃあ治すのに時間かかります?」
先生が金属製のデンタル器具を口から外してくれたので私はそう答えた。
「うん、これ抜かないとだめだね、ブリッジの片方の柱の歯がダメだから抜いたらそこは部分入れ歯になるよ」
無情にも先生はそう言って私の反応を待った。
(入れ歯)というなんとも終末的フレーズに私はしばし言葉を失ってしまったが、我に返って先生に問いかけた。
「入れ歯ですか、通常の銀色のやつのでは無理なんですか?」
技術的にはそのままロングブリッジは可能らしいのだが、医療的にはしてはいけない取り決めがあるとの事で、結局は部分入れ歯を作って行きましょうという事になった。
その部分入れ歯を作るにあたって、今、歯を抜いたところの歯茎が完治してからでなければ型も何も取れないという事で、最低2ケ月の治癒期間が必要となった。
忙しさにかまけているうちにその2ケ月が過ぎ3ケ月が過ぎた。歯茎はすでに完治しているようだった。それから蒸した夏が過ぎ、残暑厳しい秋が過ぎて初冬を迎える頃となった。
とうとう重い腰を上げて私は歯科治療の再開を決意した。すぐ先には年末年始の忙しさが待っていることから、治療するなら今が今季の最終チャンスとみたからだ。
予約のための電話を入れてみる。
トゥルルルー トゥルルルー・・・・・呼び出し音は鳴り続けるが、誰も出ない。何度かチャレンジしたがとうとう電話に応答してくれることはなかった。
まさか‥忙しいのか。
それからまた数日が過ぎていた休日、プールに行った帰り道にその歯科医院に寄ってみることにした。あれから何度か電話してみてはいたのだがいち度も出てはもらえなかったからだ。
歯科医院は閉院していた。
近頃人気の青森米ではないが、青天の霹靂と言っていい突発的出来事だった。ずっと通ってはお世話になっていたところだった。先生も気さくな話しやすい人だった。看護師さんの笑顔にも癒されていた。それが、今はやっていないのか、なんだかショックだった。突然の喪失感に私の中にある無数の歯車のなかの極小さな一つがぱちりと欠けた。
数日を要して現実を受け止めざるおえなかった私は、一念発起、気を取り直して次に通う歯科医院を選択することに専念した。
近場で混んでいなくて腕が良くて治療が速いところだ。
数件のチョイスの中からひとつ、一番近いとこに行くことにした。通いやすさ、これが優先された。それ以外の情報を得ることは私にはできなかったからだ。
予約を取って行くと、待合室には私ひとり。当然のごとくすぐに見てもらえた。大きな医院ではないが適切に診てもらえた。その日のうちに型を取りあとは出来上がるのを待って装着するだけだ。
しかしその装着する前に一回だけ予備的診察があった。仮上がりの部分入れ歯を一度はめてみてそれはすぐに終了、そのあとに歯磨き講習という時間が設けられていた。
一本の歯ブラシを渡されて看護師さんがやるように見様見真似でやるのだ。ゴシゴシとなんとなく全体を上下に左右にただ磨くのではない。歯と歯茎の隙間を微細振動で一本一本30回という気が遠くなるような回数で、丁寧に磨いていくのである。これはかなりの時間を要する。
「歯茎いたいでしょ?」
おぼつかない手さばきの私の様子を眺めていた看護師さんが言った。
確かに痛かった。ブラシの細い毛先が歯茎の隙間ポケットにぐいぐい入り込んで奥底の神経を逆なでするようにチクチクと刺激的だ。反射的に顔がゆがむ嫌な痛みだ。
「はい、痛いですね」
私が言うとすかさず看護師さんが言った。
「その痛い奥の方が磨かれていないから虫歯になるんですよ。最初は痛いのですが、だんだんと痛みも薄れていきますよ。全体磨くのに20分から30分くらい時間がかかるんですけどこれをやっておけば歯茎下がりもなくなると思いますよ」
20分ほどの時間をかけて、その治療用の椅子の上に座ったままで指導を受けた。ここまで熱心に、言葉の端々に熱を帯びた歯磨きの指導を受けたのは初めてだった。
かつては言葉だけの歯磨き指導は受けたことはあった、がその場限りのたわ言で終わっていた。だが、今回は違った。歯茎のあまりの痛さにこれは何かあるとの判断が働き、実践してみる事に意思が動いた。
その後2日3日はやはり痛みはあったのだが、徐々にその痛みは薄れていった。あの看護師さんの言う通りだった。1週間もすればその痛みはほとんどなくなり、今まであった厄介な知覚過敏がなくなった。歯磨きでこれほど違うのかと目からうろこがポロリと落ちた。
新たな歯科医院で学んだこの歯磨きの仕方、これはこれからも続けて行くつもりだ。
なぜなら、食と言う人生において大きなウエイトを占める部分を有意義なものにするためには、これ以上大事な歯をなくしたくはないからだ。納得。
ところで突然閉院されたK先生にはいったい何があったのだろうか?今も元気で好きな漫画本を読んでいるのだろうか?あの看護師さんはまだまだ若い方だったので転職でもされているのだろうか?最終会えなかったのでそんな事が、なんだか気になる。

 
   
   
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