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第183話  そろそろ

  昨年(2018年)10月、大型台風接近により残念ながら躊躇もなく速攻に中止となってしまった「弘前アップルマラソン」。その年は、私自身の大きな節目として捉えていたこともあり、8月の「鯵ヶ沢トライアスロン」が終わった後もランニングに関してはしっかりとスピードトレーニングを交えて長い距離を走行する課題をクリアしていた。今年が最後、今年がタイムトライする最後と位置付けて頑張っていたのだが、先にも記していた季節外れの台風で敢え無くオジャン。その落胆は私のやる気をそぐほどにしばらくの間続いた。
もしその2018年の大会にてそれなりの目標タイムをクリア出来ていたら、次のここからは無理に頑張らずにそれなりな走りで完走を目指し、余裕を持った心地よい疲労感を味わって行こうと考えていたものだ。だから心情的には納得のいかない年となった。
そんな煮え切らない状況の流れの中を漂っていただけに普段の走りにも精彩がない。それでもそれ以前はそれなりにトレーニングしていたこともあり、今年5月に参加した「ウミネコマラソン」ではまあまあのタイムでゴール出来ていたのだが、そのあとがやはり続かなかった。
走ることは走るのだが、タイム的には以前のそれとは程遠くまた走る距離もショートなものが大半を占めるようになっていた。いつしかそれが普通となってしまい、それでいいものだとなってしまう。そんな自堕落的な朝が夏中続いた。
9月に入り、大会までにあとひと月となったあたり。
昨年大会が中止となって、自身好調を維持していた時に走れなかった悔しさが、期日迫るこんなところで擡げだす。なんだかそれは急に来た。
もやもやとずっと胸中に留まっていた灰色の濃霧を吹き飛ばさなくてはならない、そんな気持ちだ。そこから一念発起して昨年やっていたようなトレーニングに入る。が、そんなすぐにうまく行くわけもないのだが、それを続けることに専念したのである。
とうとうに、大会となった。
昨年思い描いた作戦どおりに「ペースメーカーについて行く」を実行した。決して追い越してはいけない。追い越すことによって後々ダメージが私を襲うことは明白な事実であり、たっぷりと苦さは経験済みである。序盤、私は私のはやる気持ちを抑えながらじっくりとひとつの集団の中の一員としてついて行った。中盤に入るとそのスピードが心地よいものとなっていて皆一緒のリズムの中で走る。折り返し地点で持参したエネルギー補給のタブレットを口にする。まだまだ快調だ。30キロを過ぎ、いつもならこのあたりで足に張りが出てきてきつくなるのだが今のところそれはない。農家の方々の好意で設置してくれてある補給所で紫濃い葡萄の一粒を口にする。「うまい!」
ややふくらはぎに微妙な痛みが出てきたが今のところ順調に走れている。途中、民家が立ち並ぶ小さな集落を通り過ぎる。34,5キロ地点に差し掛かっているところだろう。
ここにきて突然と両ふくらはぎに激痛が走った。
こんなところで・・・・もうすぐ・・・・なのに。
私はその両ふくらはぎの痛みに耐えた。耐え続けて走っていると次に内ももにも激痛が走った。ここで万事休す。
あと少し、大通りのこの1本路の最終コースを残してのペースダウン。ペースメーカーとその一団は無情にも徐々に遠ざかり、そして小さくなっていく。仕方がないのだ。
この距離までそれなりのペースで駆けてきたせいなのだろう、足を地面に着くたびに下から上へと激痛が走る。私はとうとう歩いてしまった、が、この歩くという行為さえもままならない事態に至っていることに今さながら気づかされた。激痛でまともに歩けないのである。これではどうしようもないので、歩道側にある縁石に座り込んでしまった。情けない、レースでは初めての事だ。座ったままで、私は両ふくらはぎを両手で力の限りもんだ。
痛いのなんのと、とんでもなくいてててて~だ。が、揉み解さなくてはここからが始まらない。私はふくらはぎの痛いところを両親指を立ててぐりぐりと押し込む。形相は苦痛にゆがむ。
「大丈夫ですかー」
品のいいランウエアーに身を包んだスレンダーな女性が声を掛けてくれた。
おおーなんて優しい女性なのだ、こんな無様な状態じゃなければランチにでもどうですか?な~んて誘えるかな、いやいや、こんな無様な格好で路傍に転がっているからわざわざ声を掛けてくれたんじゃないか、そっか、そりゃそうだ、納得。
「ええっ大丈夫です、ありがとう」
私は渾身で作り上げた満面の笑みを浮かべて空しくもそう答えた。
彼女は振り向きざまに「頑張りましょう」、そう言って可愛くひと笑顔、そして颯爽と駆けていった。
ゴールまで5キロ余りを残してのこの有様は情けなかった。
少し走っては座り込んで足を揉む、この行為を3度続けて残り3キロ、ここから足を引きずりながらも走った。ひたすらトボトボと走った。
なんとかゴール。
もうすっかりと身も心もお腹も空っぽだった。ゴールしてもらった真っ赤なリンゴをひとかじり。湧き出る果汁は荒涼としてしまった私の心に小さなオアシスを作った。
そして解った、これが現状なのだと。もう無理はするなと。
そろそろここでそれらのレースを楽しめる形で参加することを考えなければならない時期が来たのだと。
心に沸いたリンゴ果樹の小さなオアシスで軽くひと泳ぎした私は、冷静に現実を直視し、そろそろかな?とひとつため息をついた。

 
   
   
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