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第147話  あさの食卓

  いつものように目覚まし時計が朝の到来を知らせる。
その目覚まし時計の電子音が鳴りだす直前の、タイマーセットされてある時間の位置に長針が重なった時に発生する「カチリ」と言う幽かな音で、私は目が覚める。本格的にピッピッピッーーーとなる前に覚醒し、そしてタイマースイッチをオフにするのである。
わずらわしいあの電子音が鳴る事は少ない。
そしていつものようにジャージに着替えて戸外に飛び出すのである。
玄関を出て突きあたりを左に曲がりしばらく走ると静まり返った住宅街へと入る。カーテンが閉まり未だ人間活動の感じられない家々がほとんどだが、なかには少数ながら台所と思われる曇りガラスの向こう側で忙しく動き回る人影があったりする。
(んっ、このにおいは)
すきとる新鮮な朝の風を切り裂きながら進む私の鼻先にそれは漂って来た。
(これは、カレイか、カレイを焼いているにおいだ)
うまそうなにおいだ。
むかしむかしの1ページ、祖母が私に作ってくれていた朝食のメニューで一番多かったのが生干しの焼カレイだった。二番目がイワシの焼いたやつに三番目がクジラの赤身のソテー醤油味で四番目が青ネギの刻んだやつを混ぜ込んだ玉子焼きと続いた。どちらかと言えばクジラ肉、もしくは卵焼きの方が好みだった。
幼い私にとってカレイやイワシの骨が厄介だった。とくにカレイの縁側の部分はそのまま取り外すと中に隠れた身をすする事も無く皿の端っこによけた。頭部を取り除き、きれいに取れる胴体の部分のみを食したものだ。それを見た祖母は、さかんにもったいないもったいないと言いながら、私の残した縁側の部分を両手を使いハーモニカを吹くようにきれいに食べていたものだ。
今なら解かる。
ちぎり取ると白い湯気がふわり立ちのぼり、うまみ脂をたっぷりと抱えてふっくらと盛り上ったそれは適度に薄皮が焦げ、香ばしく鼻腔をもくすぐる。
たらり醤油でしめらせ、連なった骨だけを残すように唇ではさみこんでそぎ取る。
カレイ独特の香りが鼻をぬけ凝縮されたうまみが口内に充満し至福の時を与えてくれる。
(ゴクリ)
走りながら、私は唾を飲み込んだ。
ここんち、今朝は焼カレイか、いいな・・・・私は素直にそう思った。
こうなればもう離れない、頭の中は焼カレイでいっぱいだ。
焼カレイ焼カレイ、しかし急にカレイと言ったって冷蔵庫の中に突然にあるはずもない。
戻ったら買いに行こうか、いやそんな時間はない、んー・・・どうしよう。
そんな事を想いながら走っていると10キロの距離も意外と早く感じる。
帰って来た時には既に焼カレイの面影はやんわりと薄れていた。
そしていつものように朝からハンバーグを焼いている。
朝の食卓は肉に野菜3種類に納豆に牛乳にヨーグルトと玉ねぎの味噌汁とてんこ盛りだ。
汗した後は、特に朝はしっかりと食べる、幼いころからの習慣でもある。
食後にはすでに焼カレイは頭の片隅に追いやられている。
でもいつかは、そのうちいつかは「焼カレイ」で朝飯を食ってみたいものだ。
想えばあの頃は、確か家の前の魚屋が早朝から店先で大きなカマドで炭をおこして金網を敷き、その上でたくさんの種類の魚を焼いては販売していたものだった、賑わいのある懐かしい光景が脳裏を過る。

 
   
   
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