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第135話  晩秋を駆ける

  ときおり小雨そぼ降るやや肌寒い環境のなか、2015年の今年も「弘前アップルマラソン」を傍若無人に駆け抜けた私。私自身だけを見つめあたりかまわずふらつきながらも懸命にゴールという名もなき勲章を胸に刻んだ。
昨年からの進化、一定のペースをなるべく維持しながらの走行に幾分成功した前半は、今までにないタイムが期待できるまでに余裕が生まれていた。なぜなら、大会1,2を争い先頭を突っ走る選手達がすでに中間地点を折り返して来て、私のような下位の者とすれちがっていた場所が、以前より確実に短縮されていたからである。
毎回時計を持たない私にとって、その瞬間こそが時間を推し量ることのできる唯一のタイミングであり、それを目安として頭に刻む感覚なのである。
勿論先頭の人間が、また全体的にそれらが遅いペースなのであれば必然的にタイムは遅くなるのではあるが、それは仕方のない事であり、大きく気にはしない。
体に大きなダメージも無く折り返す事が出来ていたので、私はそのままのペースを順守し無理はせずに淡々と走り続けた。
しかしやはり40キロは果てしなく長い、このまますんなりとその気の遠くなるような距離を何事も無く走りきるのは難しい事くらい充分に承知している。案の定、30キロを超えたあたりで両のふくらはぎが悲鳴を上げ始めた。ピリピリと電気が走るようにピクピクと何か違う物体がそこでうごめくような違和感を覚える。次第に「痛み」が加わり一歩一歩が重くなる。
ただ、2013、14年の経験があった私は、そうあせる事はなかった 。筋肉の収縮の範囲が狭まっただけでありまったく動かなくなっている訳ではなかったからだ。スピードを少しばかり抑え、チクリチクリとやってくる痛みを緩和させながら走り続ける。
踏み込むたびに発するその痛みも次第に慣れる、そんなものだ。スピードはやはり落ちてしまっているが、この状態を維持するのが今できるベストである事は間違いない。
水分補給に栄養補給、沿線に設置してくれている補給所をフルに活用させてもらって走り続ける。そろそろ35キロを過ぎたあたりか、よくこんなに走っているものだ、我ながらそう思う。そしてこのあたりでいつも思う「もう来年は出ない、ぜったいに出ないぞ」と。

独自補給所を設置してくれている民間のブースでの「コーク」は毎年うまい、体はジャンクなそれを欲しているのだろう、いつもながら2杯もらう。
体に少しばかりの精神的休息とたっぷりの栄養と充分な水分を補給し体力の減退を防いではエッチラオッチラと走り続ける。
40キロに近いあたり、やはり現れた。
そして今回はあきらかに私がそのランナーのペースメーカーである事は明白に理解できた。
前方を歩いているそのランナーは後方をチラホラと覗きこむ、私が並んだところで走り出す。しばらく距離を稼いでは歩く、私がまた並んだところで走り出す。その繰り返しが永遠と続く。だが、私はもう昨年の私ではない。ひとつの年を重ねるだけでもおとなになる。
やつも必死なんだ、どうしてもゴールを目指したい、それだけさ、その一念が彼を突き動かしているだけだ。
「このおっさんにはなんとかくらい付いて行かなくては、負けるもんか」
披露困憊の体にそう鞭を打っては前へ前へと一歩一歩進み続けているのだ、そんなふうに思えた、今年の私。
平常心を持ち続けて私は私のペースを守り、そして走るだけだ。
とうとうあと1キロと少しのところまでたどり着いた。ここまでくれば後は野となれ山となれ、全力を出し切るのみだ。
最後の登りのところで前を歩くそのランナーと並走になる、横目で追いついた私を確認すると彼は力を振り絞ってまた走り出す。覚悟を決めていた私はいっきにスピードを上げる。
どうやら彼は、私を追い越す事が出来る程体力が残ってはいないようだった。
私は私で、ふくらはぎ痛と右ひざ痛がダブルで襲っては来るがなんのその、駆けっこ状態で振り切る。前方を走っているふたりのランナーもついでに抜き去った。
そのままゴール、私は私自身のために走りきる事が出来た、ホッとしたひと時。
もう走らなくてもいい、ただ、そう思った。
気がゆるんだその時、両足全体に痛みがはしった、特に右ひざのあたりが痛い。痛すぎて不思議なくらいに歩けない。さっきまで走っていたのに普通に歩く事が困難だ。はたから見たらまったくもって滑稽な歩き姿に映っていることだろう

完熟リンゴ一個と完走証をもらってそのままホテルのパーキングへと向かう。
会場の階段をゆっくりと下る、引きつるように足全体に痛みが走る。ゆっくりゆっくりと進もう。賑わう、あたりの人々にかまう必要はない。
ツーブロック先にあるパーキングに向かう近道はこっちか。これを通ればなんとか無事にたどり着けそうだ。私はコース脇に設置してあったロープを、痛みをおしてまたいだ。
「ちょっとちょっと、ここはコース内だから入っちゃだめですよ」
レーススタッフの冷淡なひと言。
「えっ、まじで!」
呆気にとられる私。
まさか、である。なぜなら昨年はここらあたりを通ったはずだったのに。
しぶしぶながら再び痛みをおして元の位置にまたいで戻る。
そこからの長い旅が始まった。ツーブロック、信号ごとにぐるり遠回り、吹きすさぶ寒風が弱り切った私の身体をいたぶる。震える程の寒さに血も凍り、足が痛くて痛くて一向に距離が稼げない。信号から信号が遠すぎる。こんな風に無情とはそこここに転がっているものだ。何が大変って、ここが一番きつかったように思う。

「さぁ帰ろう、八戸へ」
汗をたっぷりと含んだウエアーを着替えてサンダルに履き換えた私は、風が無いだけでもほっこり温かい車内のドライバーシートにぐったりともたれかかりながら、壊れてしまった右ひざの先にある足先で、そっとアクセルを踏み込んだ。

 
   
   
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