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第113話  凛とする

  風もなく穏やかと言えば穏やかな極寒の世界。
音もなく深々と降り続いていた雪もどうやら止んだ様子。
少しばかり時がながれ、すっかりと雲が走り去った夜の空には満天の星が輝き、先ほど降り積もった雪は月に照らされ銀色にたたずむ。
ザクッザクッ、静まりかえった隅々に私の刻む快活な足音が吸い込まれていく。
ブルゾンのサイドポケットに両手を突っ込み、襟元にまいたマフラーから見放された鼻と口からは白濁の凍てついた息が噴き出す。この世にはやはり私ひとりしか存在しないのか?なーんて錯覚しそうなくらいに目の前のすべての原子が微動だにせずにひっそりと息を殺す。物音ひとつない、恐ろしい程の静けさに耳が違和を感じる。
零下にまで冷やされ凝縮された空気はひと息ごとに肺を射す。
孤独の闇をさまよう放浪者のように背を丸くかがませながら歩む場面がなんだか心地よい。
北国に生まれた性かどうかはわからないが、優柔不断を許さない厳しく凛とした空気がいい。

小学校3年に上がったその年の冬にスキー教室があることを知った。
低学年の頃まで着ていたあまりにも幼く薄汚れたものではなんだか気恥ずかしくなった私は、祖母に無理を言って新しいスキーウエアーを買ってもらう事になった。
月に一回、青森市内にある県病へと通院していた祖母と一緒に路線バスに乗り、その青森市へと向かった。徐々にあたりは深く白い世界へと変化する。この北国の、しかも県北の凍てつく環境はまた厳しさがひと味ちがうようだ。雪の量が地元の数倍はある。
その白い世界へと降り立ち、私達はひとまず病院へと向かった。祖母にとってはその病院がメインなのだが、「ひとまず」とはまったく私個人の我がままな考え方でしかない。
診察、治療、そして薬の受け取り支払いといった一連の流れをなんなくクリアーし、とうとう私の目的である繁華街のスポーツ店へと向かった。
季節がら店内には所狭しと色とりどりのスキ―ウエアーが並び華やかな雰囲気を醸し出す。私の心はもうときめきっぱなし、ひとつひとつの品を指先ではじいては吟味する。
その数々のウエアーのなかにピンとくるひとつが見つかった。
シャイニーブラックの中綿入りでスタンドカラ―のにくいやつ。5センチ幅のボーダー状にキルティングがはいり均一に程良い陰影を作り出す。左胸にジップのついた透明の四角いポケットが美しい。私は一目でこれが気にいった。
値段はいくらだったか?まったく覚えていないが当時の子供服にしては極めてお高い値段であったはずだ。祖母は文句のひとつも言わずにそれを買ってくれた。
私はうれしくてうれしくてもうたまらない。そのウエアーを入れた大きな紙袋を両手で大事に抱えて帰りのバスに乗り込んだ。寒さなんかはもうなにも感じなかった。
スキー教室までにはまだある程度の日にちがあった。それはとても長く感じているだけの短い日々を、私はとうとう待つ事が出来なかった。
スキー教室がある前日の朝、私はそのシャイニーブラックのスキーウエアーに袖を通した。明日の予行練習だからと祖母に言い訳をひとつ。やっとこれを着て街を闊歩出来る、その喜びに全身がうきうきと浮かれた。
玄関のドアを開け、颯爽とその一歩を踏み出す。
ピリリと凍てつく空気は一瞬のうちに私の鼻毛を凍らせ、そしてこの無防備な肺を射す。
体がシャキリと引き締まる。さっきまでぼやけていた脳は研ぎ澄まされ、鋭敏な感覚を取り戻す。背筋が伸びる。新調したウエアーは世界で一番カッコイイと思えたし、それを着て歩いている私自身が誇らしく思えた。

深い夜気はぞくぞくする程の歓喜と孤独を連れてくる。
ザクッザクッ、私は幼いころのあの感覚を思い出しながら歩く。乾いた空の星はまたいちだんと美しいものだ。つらい事もあるが、冬だってすてたもんじゃない。
そして冬はいつも私の傍にある。

*本年もたくさんお世話になりましてありがとうございました。
年内は31日午後5時までの営業となります。
新年は1月2日午前11時オープンとなります。人気の福袋はメーカー別に5種類の用意があります。どうぞお楽しみに。
2014年も頑張って行きますので、どうぞよろしくお願い致します。
ティーバードスタッフ一同

 
   
   
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