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第103話  インフルな時間

  土曜日の夕方だった。
全身に理不尽な程の痛みと倦怠感、さらに極端な悪寒が加わり、いったいどうしたのだろうと考えてみるが単なる年のせいでの症状でない事はなんとなくわかる。
とうとうめまいまでしてきた。
こんなんでここにいてはいけないと直感、そこでとっとと早退することに。この時間、おそらく病院はしまっているだろう。なにしろ急な展開に何の手当てを施す事も出来ず、帰宅後すぐにベットイン。こんな時は横になるのが一番だ。
冷たいベッドにフリース上下で武装し、そろそろとフトンをかぶる。
ぐったりと力無く体を横たえている状態で疲れ果てた腫れぼったい目をちらりと開けてみる。
いつもながらの天井が、まるで20メートルも沈み込んだ谷底から眺めている程に遠くに感じる。とてもじゃないが飛び上がれば手の届くようなたやすい距離感ではない。その異常なまでの違和感に起き上がってみる事を完全にあきらめた。意識はあるのだが、かなり狭い範囲の感覚のみが稼働している、といった具合。別段腹も減っているわけでもないしまたトイレだって大丈夫そうだ、とにかくこのままじっとしていよう。
そうこうしてその夜と翌日まるまるをなんとなくやり過ごした2回目の朝、ようやく体が言う事を聞き始めた。今までに味わったことも無い全身にちらばる痛みと朦朧とした視聴覚、寝たり覚めたりのその繰り返しをさすらったうつろな時間をどうやら大量に費やしていた。
確か今は月曜日のはず、病院に行かなくては、そう決意した。

「やっぱりね、もしやと思ったから検査してみたんだけど、A型みたいね。」
女先生は書類に目をやりながら得意げにそう言った。

生まれて初めてのインフルエンザだった。
そうか、これがあの高名なインフルエンザと言うものか・・・なかなかやるもんだ。
その圧倒的な重い攻撃にここ数日で体がガタガタになってしまっている。ほとんど何も口にしてはいなかった。いや、口にしたいとは思わなかった。
しかしたった今ぶっとい血管注射をチャーミングな看護師にしてもらったしツートンカラーのカプセルに入った特効薬タミフルももらった。これでなんとか持ちこたえることが出来るだろう。滅多に風邪で病院を訪れる事はないが、今回は来院してよかった。病名がしっかりと解かり、注射を打ち薬ももらったという安心感はひたすらに大きい。
だがそろそろ何か栄養になるものを食わなくては・・・。
帰宅した私は、ひと月程前に買ってあったリンゴを冷蔵庫から取り出しかぶりついた。滅多にリンゴを買う事はなかったのにこの時ばかりは不思議に思った。そのリンゴは未だみずみずしく若さが弾んでいた。リンゴってなんてうまいんだ、あふれ出す果汁が体の隅々までドクドクと浸透していく。これだ、この感覚を欲していたのだ。ひとつを平らげた
私は、続けざまふたつ目にかぶりついた。うまい、うますぎる。いっきに2個完食。
うっなんだか胃が重い、それは残念ながら食い過ぎだった。
先生に診てもらいほっと一息ついたのもつかの間、今度は一気に胃がもたれだした。そこで私は再びベットインと相成った訳だが、リンゴはけっして悪くはなかった。むしろ体にはとてもいいような、多大な栄養を摂取できたような実感がある。ただ、過ぎてはいけない、それだけだ。
この日はそのままふとんの中で「なんてこったい」と現実を受けとめて過ごした。

翌日からは普通に起き上がることが出来た。かなりの回復が見られる。徐々に飯も食えて力も湧いてくる。やっとインフルエンザの魔の手から一歩抜けだした、と言ったところか。

起きていても何もすることのない私はただひたすらに各局のテレビ番組を観て時を過ごした。滅多に午前午後を駆けぬける帯的番組を見たことはなかったが、そんななかで気にいったのがひとつ、「必殺仕事人」のリバイバルだ。善人がもったいぶらずに次々と殺されて行くところは現代のドラマにはまずない。絵にかいたような悪人がきれいさっぱりと消される爽快さも圧巻だ。そしてまた藤田まことはやはりおもしろい。昭和のドラマはなか なかいけるものだと感心した。
「さあ、あったかいラーメンでも作って食うか。」

それからほどなくして仕事に復帰、脳裏でしか会えていなかったタオとアンリを抱っこできた事はこのうえない喜びであった。陰気くさい小さな空間でボーと過ごした息苦しい日々を考えると、元気になれて本当によかったとしみじみ思う。生かしてくれた寛容なる神に感謝である。
もう二度とうす暗い疎外感とは対峙したくない、一回目は秋あたりにあるんだろうか?とにかくインフルエンザの予防接種だけは受けておこう、そう心に決めた。

 
   
   
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